ラストメッセージ
病院に通っているうちに美乃の両親とも会う機会が増え、ふたりとよく話すようになった。
彼女の両親は、俺に何度も感謝の言葉を並べ、いつも気遣かってくれていた。
俺たちが付き合い始めた時もふたりともすごく喜んで、俺に深々と頭を下げてくれたほどだった。


信二や両親はいつも、美乃の気持ちを尊重していた。
それが彼女の願いだと、ちゃんと知っていたからだ。


『明日死ぬかもしれなくても、いつもと同じ生活がいい』


美乃の口癖だったその言葉を叶えるために、俺は彼女の体調がいい時には許可を貰って、一緒に外出した。
仕事を調整するのは大変だったけれど、できるだけ美乃と一緒にいたかったから……。


外出を許可される時間は様々で、一番短い時には三十分ということもあった。
それでも、彼女は『病室にこもるよりずっと嬉しい』と喜び、そんな時には病院の近くにある公園で散歩をした。
菊川先生も考慮してくれ、外出できる回数が少しだけ増えた。


俺達は一緒にいる時、常にくっついていた。
指を絡めて手を繋いで歩き、公園や街中では人目を盗んではこっそりキスをする。


最初は照れていた美乃も、そのうち慣れてきたらしい。
たまに、自分からキスをして来るようになった。
不意打ちでキスをされた時には俺の方が照れたりして、彼女は悪戯っぽい笑顔で嬉しそうにしていた。


美乃の温もりを感じる事で、彼女が生きてることを実感していたかったんだ。
俺から離れないように、どこにも行かないように、美乃を大切に大切にしていた。
彼女はそんな俺を見て、口癖のように『私は幸せ者だね』と優しく笑っていた。


だけど……それは、俺の自己満足だったんだろう。
美乃を大切にしていたのは紛れもない事実だったけれど、結局は俺が彼女に傍にいて欲しかっただけ……。


俺のワガママだったんだ――。

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