Devil†Story
――ドクンッ

「グッ……!」

クロムが胸を押さえて前屈みになる。

眉間に皺を寄せて、歯を食いしばっている。

クロムは痛みを表情に出すことは殆どない。

そのクロムが、これだけ表情に出しているのだから、かなりの苦痛なのだろう。

それは、手に持っただけの俺にも分かる。


ロスは黙ったまま、それを見ている。


首筋から血管が浮き出ていた。


多分、血印を中心に血管が浮き出ているのだろう。


その時、クロムがいつも持っている剣の柄の目玉が開いた。

そして、ギョロっと俺を見た。

「!」

そして、俺の方を見たかと思うと、剣だけが勝手に俺の方に飛んできた。

「あっ」

ロスが、声をあげる。

―殺られる!

目の前に迫った剣を見た俺がそう思ったが、それ以上剣が先に進むことはなかった。

「―クロム」

「!ク…ロム」

ロスがクロムの名前を呼んだ。

クロムを見てみると、まだ苦しそうな表情を浮かべたクロムが剣の柄を握りしめていた。

その手には悪魔の紋章である、逆十字架に悪魔の羽が型どられているマークが浮かんでいた。

その周りにも、血管が浮き出ていた。

カチカチッとまだ俺の血を求める剣が暴れている。

「――誰が勝手に狩りをして良いと許した。こいつは殺さない。…戻れ」

ギロッと剣を睨み付けながら、低い声でクロムは言った。


俺に向けられた物ではないのにゾクッと背中に冷たい汗が流れた。


全く…この子の威圧感も並みではない。

そのクロムの威圧感に押されたのか、剣の目玉は閉じいつもの剣の形状に戻った。

それを見たクロムは息をはいて、体勢を整えた。


「よく受け入れている途中で、気が回ったな」

「これくらいなんて事ねぇよ。…とはいえ、油断した。魔力が逆流して、こいつの方にいっちまった」

チンッと剣を納め、クロムは悪態をついた。

「つめが甘いな」

「うるせぇ。…だが、確かにな。鍛錬不足だ」

「おっ、認めるなんて。珍しいな」

「俺は弱いのが嫌いなんだよ」

「まー、でも…人間にしたら上出来だ。これは魔物でもキツイ儀式だからな」

何事もなかったように会話をする2人。

本当に…クロムはこんなものを何もなく受け入れるなんて……。

なんて……

――なんて、美しいのだろう。

額に手をやりながら、話すクロム。

その整った顔、肌の白さ、高い鼻、艶やかな唇、髪の毛…そして、紅い瞳。

ロスと出会わなかったらこの子はどうなっていたのだろう。

俺はクロムの過去を知ってる。

だから、この子が抱えている闇の大きさを知っている。

そして、この子の心にある傷の大きさも知っている。

それを表に出さず……本当に強い子だ。


悲しい程、美しいこの子には……明るい未来はあるのだろうか。

できれば、ここに居る子達には…幸せな未来を送って欲しい。

それは俺の願い。

「――悪いな、刹那」

「!」

不意にクロムに声をかけられて我に返る。

「俺の剣がお前に向かったのは、こいつを扱えなかった俺の未熟さと血を吸わせなかった怠惰のせいだ。だから、悪い」

クロムが珍しく謝ってきた。

「あ、あぁ…大丈夫だ。君が止めてくれなかったら俺は殺されていた。だから、逆にありがとう」

俺がそう言うと「…別に。こいつが勝手なことしたから癪に触っただけだ」と、いつものようにぶっきらぼうに返してきた。

すると、ロスは笑いながら口を開いた。

「馬鹿だなー、クロム。こいつは俺の剣だぜ?他人がそうそう扱えるものじゃない。寧ろ、お前が今までの奴等に比べたら扱いきれてるんだからさ」

「馬鹿はお前だろ。こいつは俺の血が好きで従ってるだけだ」

「それだけじゃ、こんなに言うこと聞かないって。こいつはお前を主だって認めてるんだからさ」

「どうだか…」

クロムはハッと鼻で笑った。

「………」

「まっ、これで稀琉たんは平気だろー」

ロスの言葉にハッとする。

「あ…あぁ、ありがとう」

「2〜3日もすればきっと目が覚めるさ」

「じゃあ、目が覚めたら教えろ。…まっ、その前に奴さんが来ないのを祈ろうぜ」

口角を上げてクロムは悪っぽく笑った。

…まぁ、笑顔ではないんだけどね。この子にとって…きっと、心から良い笑顔をしたのは…ずっと前なのだろうから。

きっと、今は今で楽しんで笑っているのだとは思う。

だが、その笑みの意味はかなり異なる。

「うん。分かったよ。…多分大丈夫だとは思うけど…その時はよろしくね」

俺の言葉に二人は黙ったまま頷いた。

「じゃあ、俺は寝る」

「ゲェ!?寝んの!?」

「やることもないしな。寝溜めしとく」

「いや、お前意味ないじゃんか、いくらしても!」

「うるせぇなぁ…。暇なら麗弥か刹那に遊んで貰え」

面倒くさそうに扉に向かうクロム。


ロスはうんざりしたような表情を浮かべていたが「じゃー、麗弥と組手でもしてよ」とケロッと言った。

「加減しろよ」

「当たり前じゃん♪じゃっ、よろしくなー、刹那」

「あぁ。ゆっくり休んで」
「んー」

こうして二人は部屋を出た。

「ふぅ……」

刹那は稀琉が眠る部屋でため息をついた。

「…やっぱり、触らない方が良かったね。結晶。…余計なことばかり考えてしまう」

それを聞いたのは寝ている稀琉だけだった。
< 398 / 541 >

この作品をシェア

pagetop