Devil†Story
「行くぞー、稀琉」


ロスはそう言いながら、グッと手に力を入れた。


「うっ……!!」


その瞬間、稀琉は苦しみ暴れだした。

「稀琉ッ!!」

刹那が心配そうに稀琉の名前を呼んだ。

「おっと…やっぱ喧嘩してやがるな。しっかりしろよ〜稀琉」

少し険しい顔をしながらロスは右手に意識を集中させる。

「ロスっ!押さえるよ!」

刹那がそう言って稀琉を押さえた時だった。

「チッ……面倒だな」


クロムも稀琉の側に来た。


「クロムッ…?」


「…押さえててやるよ。お前の力だけで押さえられる程…簡単な奴じゃないだろ」


それは分かる。だが…


「ッ…お前が、力の足しになんのかよ?」

ニヤリッと笑ったロスが少し顔を歪めながら聞いた。


どうやら、力の調整をしているようだ。


しかしその通りだった。


やはり、普段からロスに容易く抱き抱えられ、力には自信がないクロムが、比較的力の強い麗弥ですら押さえ込めなかった稀琉を刹那がいるとはいえ押さえられるとは思えなかった。

「なめんなよ。こんなひよっこ…押さえられねぇ程、非力なつもりはねぇよ」

クロムはそう言いながら、刹那が押さえていない、足に手をかける。

「ひよっこねぇ…まぁ、今は猫の手でも借りたいくらいだ。期待はしてねぇが頼むぜ」

ニッと笑うロスにクロムは「馬鹿にすんな」と悪態をついた。

「じゃあ…血を出すぜ。準備はいいか?」

ロスの言葉に2人は頷く。

「互いに…歯ァ食いしばんな」

グッと手に血筋が浮かぶのと同時に稀琉は暴れだした。

「ッ…!稀琉…頑張って…!」

「………」

刹那とクロムが押さえてる為、稀琉は少し身を捩るだけだったが、かなり苦しそうだ。

「あ…ウッ…グゥ……!ハァ…!ハァッ……!」


「ッ…もう、少しだから、イイ子にしててな」

ロスがそう言うと、稀琉の体内から赤黒い結晶が少しずつ出てきた。

「アウッ……!ウッ……!」


――キィン


そして、スッと結晶が出ると、ビクンッと稀琉の体が大きく跳ね上がり、おとなしくなった。

「稀琉!」

刹那が手を離しながら稀琉に呼び掛けると稀琉は眠っていた。

「これで熱もすぐひくっしょー。まぁ、流石に少しは稀琉の血と俺の血が溶けあっちまってるから…完全に除去できたとは言えないけどさ」

自分の血の結晶を手の平にのっけながらロスはそう言った。

「あぁ、ありがとう」


「いーえ」

「これが…ロスの血……」

刹那が改めて結晶を見る。


たった5cmくらいの大きさだが、紅黒い光を放ちながら輝いているそれは、それだけでも相当強い負の力を感じられた。

「そだよ。記念に触ってみる?」

ロスはそう言うと、笑顔で結晶を就き出してきた。

「触っても…平気なのか?」

「うん、もちろん。刹那なら大丈夫っしょ」

「そう……」

じっと紅黒い光を見つめる。何かに引き込まれるような、そんな力を感じる。

「………」

俺は意を決してそれに触れてみた。


――ドクンッ

「ッ!?」


一瞬で手を離してしまった。


静電気よりも強い痛み。


そして、心に渦巻く負の感情。


こ…れは…?


ふとロスを見るとロスは刹那の心を読んだかのように答えた。


「離してせーかい。まぁ、悪魔の血の結晶だからな。人間の刹那にはきっついよ。俺の血には……そういった負の力を増幅させる力が宿ってるからね」


だから、クロムは…こんなにも血を望むのだろうか?


刹那は傍らで「あー…ったく…こんな成りの癖に…大暴れしやがって」と悪態をつくクロムを見た。

「よくお前が耐えられたなー」

ロスが茶化すように聞くと「ほざけ。こんなヒヨコ野郎」と言い返した。

本当にこの子達は……特にロスは何者なのだろうか。

刹那はまだ笑いながらクロムを茶化すロスを見る。

普通の悪魔ではないことは分かる。

少なくとも…上級くらいの強い悪魔だ。


あんな結晶の欠片ですら…あれだけの力を感じるのだ。


下級、中級の悪魔はちらほら見たことがあったが…どれの比にもならない。


初めて会った時はに殺されかけた…あの圧倒的な威圧感…。


あの威圧感と今の血の力がそれを物語せる。


まぁ、言動からして…容姿はクロムや稀琉達と変わらないのに少なくとも1000年以上は生きていると伺える。


もっとずっと前から生きている可能性だってある。


それだけでも、上級なことは分かる。


だが、それだと…何故人間であるクロムと契約しているのだろう?


彼等悪魔からしたら…人間なんて食べ物やただの暇つぶしに近いはずだ。


なのに何故…人間の子どもであるクロムと契約なんかしたのだろう。


いつだか契約したのはクロムが10歳の時だったと聞いた。


本当の子どもだったクロムと何故……。


また、ロスは異常にクロムに執着してるように思える。


クロムは確かに綺麗だが…女ではない。男だ。


恋愛対象としてなら、まだ理解できるが…そもそも悪魔が人間を愛することなど…あるのだろうか?


考えても分からないことを考えても仕方がないのだが…さっき、ロスの結晶を触ったせいか、そういった欲望が表に出始めてきた。


いけない…。


余計な詮索をするものじゃないのに………。


「さーて…じゃっ、この血を俺に戻すかー」

そうロスが言うのと同時にハッと我に返った。すると、クロムが「ちょっと待て」と言った。

「にゃに?」

「どうせだ。それ、戻すなら俺にくれ」

「えっ?まぁ、いーけど…まさか、喰うの?」

「あぁ。元々…俺の中にあったお前の血だ。いいだろ?」

「それは構わないけどさ。俺、これ出す時に結構魔力込めちまったから…力は倍くらいになってるぞ?」

倍ということは今の稀琉の苦痛の比ではないということだ。

いくらクロムでも、耐えられるかは定かではない。

しかし、クロムはあっさりと「構わない。寧ろ、好都合だ」と言った。

「まぁ、お前がいーんなら…良いけどさ。結構苦しいぞ」

「はっ…契約時よりかは大したもんじゃないだろ」

面倒くさそうに言うクロム。

それほどまで、悪魔との契約は苦痛なのだろうか?

「まぁねー。じゃあ、ほいっ」

ロスはクロムに紅黒い結晶を渡した。

クロムの手の平に輝く結晶。

あれを…飲み込むのか。

刹那はそのおぞましい光を放つ結晶を見てそう思う。

持っているだけで…その力に飲み込まれそうになるのに、それを飲み込むなんて……やはりクロムも、恐ろしいな。

本当に…この子は……悲しいくらい綺麗だ。

「――刹那」

「!」

クロムに呼び掛けられ、彼を見ると彼のその結晶と同じ色の目と合った。

「お前も、俺等の事を知る者としてよく見てろ。…この力を受け入れる代価のでかさを」


凛とした目が俺を捉える。

俺は黙って頷いた。

それを見ると、クロムは躊躇することなく手の平を口に運び……


――ゴクンッ

その結晶を飲み込んだ。
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