Devil†Story
――12年前


ブラックカフェがある、更に郊外の森の奥。


そこに一件の家があった。

和風の、家と言うにはあまりにも大きな豪邸がそこに建っていた。

綺麗で大きな庭園、いくつもの部屋。


その一番奥の離れと似た様な場所に彼は居た。



「うんしょ…っと」


着物姿の5歳の少年。


普通なら、外で駆け回り遊んでいるだろう年齢の彼は、ずっとその部屋で隠れる様にひっそりと暮らしていた。

棚の上にあった鞠を取った少年は、すとっと床に降り、部屋の中で一人、鞠を転がして遊ぶ。

「…早くかえってこないかなぁ…兄たん…」

ぽつりと呟くのは角のような寝癖がついている金髪に、青い瞳を持つ少年。

…そう。キルだった。


その時、外側の襖が空いた。

「ただいま、キル」

にっこりと笑ってそう言うのは、同じ金髪、青目の15歳くらいの少年。

「――あっ!おかえり!…琉稀(ルキ)兄たん!」

途端、キルの表情が明るくなる。

そこで優しく微笑んでいたのは12年後にその弟を憎み、憎悪の笑みを浮かべるキルの兄…琉稀だった。

キルは兄を慕っていた。

理由はいつも一緒に遊んでくれ、色々なものをくれ、優しくしてくれるから。

そんな単純な理由だったが、キルは兄が大好きだった。

「ゴメンね、遅くなっちゃって」


琉稀はそう言うと、部屋に上がった。


「ううん、大丈夫!僕ね、もうひとりでお留守番できるから!」

ちょこちょこっと、キルは琉稀の方へ走って行って、抱き着いた。

「イイ子だね、キル」

「えへへ」

兄がそう言って頭を撫でると、キルは嬉しそうに笑った。

「あっ、これ。今日のお土産だよ」

琉稀はそう言うと、鞄の中から綺麗なミサンガを取り出した。

「わー!何これー?綺麗ー!」

キルは青と紫、水色のミサンガを受け取ると、不思議そうにそれを見た。

「これはね、ミサンガって言って…これに願い事を込めて手足首に結んだ後、自然に切れたら願いが叶うって言われてるんだよ」

「本当ー!?」

「うん。でも、俺が作ったやつだから…絶対にとは言えないかもしれないけどね」

琉稀はそう言って、困った様に笑った。


「えー!?これ、兄たんが作ったのー!?」

キルは目を輝かせて聞いた。

「うん。学校でね、文化祭というのがあって…それで、女子に頼まれて作ったんだ」

「その1つをキル用に作ったんだよ」とミサンガを見ながら琉稀は言った。


「僕の為に作ってくれたのー?嬉しい!」

ただのミサンガにこれ程にまで喜んでいるキルに、琉稀は嬉しく感じながらも「でも、ちょっと失敗しちゃったけどね」と困った様に笑った。

「えー、何処ー?」

「ほらここ」

琉稀がキルからミサンガを受け取りながら、真ん中辺りを指差した。

そこは編み方を間違えたのか、少しだけ解れていた。

「えー、全然分かんないよー?」

キルがそう言うと、琉稀は「そう?キルがそう言ってくれると嬉しいな」と言った。

「本当、本当ー!」

「フフッ…本当にイイ子だね、キル」

琉稀はまた優しくキルを撫でた。

「えへへ。じゃあ、早速付けよ――」


そう言ってキルがミサンガを左腕に付けようとした時、手を止めた。

「? キル?どうしたの?」

琉稀が顔を覗き込むと、キルは悲しげな顔をしていた。

「あ…あのね、兄たん…。僕ね…今の…この生活に満足してないわけじゃないんだよ…?でも、でも、兄たんと…父さんと母さんと…皆で仲良く暮らせたらな…って……思って…」

「キル…」

実は琉稀と両親はある出来事があり、関係こそ崩れていないが、折り合いはよくなかった。

また、両親は忙しく、中々家族で顔を合わせることはなかった。

両親は本堂、琉稀は離れ、キルはこの小部屋で別々に生活しているのだ。


この子はまだこんなに小さいのに、そんなことが望みなのだろうか。


普通なら、アレが欲しいコレが欲しいと両親の頭を悩ませるような発言をする年頃なのに、キルにはそれがなかった。


ただ1つ望む物は…家族団らん。


なんて…なんて、綺麗なのだろうか。


美しい感情。しかし、それはあまりにも悲しくて。


それに気付いた琉稀は優しく微笑むと、キルの頭を撫でた。

「…大丈夫」

「えっ?」

キルは兄を見る。そこにあったのは優しい兄の笑顔。

「大丈夫だよ。俺が…きっとそうしてあげるから。だから…願ってて。すぐには無理だけど…ミサンガが切れるまでにはなんとかするから」

そう言ってギュッとキルの小さなカラダを抱き締める。

「兄…たん…」


キルはそのまま琉稀にしがみついた。


あぁ、僕は幸福者だ、と感じながら。


「ねぇ、兄たん」

「何?」

琉稀がそっとカラダを離すと、キルと目があった。


青色の深い綺麗な海のような澄んだ瞳が琉稀を捉える。


「えへへ…ありがとう、兄たん。だーいすき」


キルはそう言うとまた兄に抱き着いた。


「うん…。俺も、キルが大事だよ」


琉稀はニコリと微笑むと、「あっ、今度、ミサンガの作り方教えるね」と笑顔のまま言った。


キルはそれを聞くと嬉しそうに頷いた。


その後、12年間つけられている左手のミサンガ。


キルにとって大切な宝物の1つとなった。
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