Devil†Story
――数日後
「んー………」
キルは鏡と睨み合いをしながら櫛で髪をとかしていた。
寝る前にキルが必ず、する行動。
その理由は不自然に上がった2つの癖ッ毛を直す為。
キルはそれが嫌だった。
しかし、いつも何をしても直らなかった。
その時…
カラカラ
「!」
「ただいまー、キル――」
慌ててキルは櫛を隠すが、琉稀はそれに気付いた。
「…また髪をとかしてたの?」
「えっ?う…うん」
琉稀に言われ、悲しそうに頷いた。
「……」
それを見つめる琉稀の顔にも曇りがあった。
しかし、すぐにキルのところへ行き、櫛貸してと、声を掛ける。
「えっ?」
「俺もとかしてあげる。ほら、貸して」
琉稀に言われるがまま、櫛を渡す。
兄の冷たくなった手がキルの髪をとかす。
「本当にいつ見ても綺麗な髪だね、キル。本物の絹みたいだ」
スルスルと髪をとかしながら、琉稀は優しく言う。
「そうかな?でも…やっぱり、この髪の毛なんか角みたいで――」
「!」
カチャンと琉稀が櫛を落とした。
「? 兄たん?」
キルが不思議そうに振り返ると琉稀は虚空を見つめて何か思い詰めているようだった。
それがキルは嫌だった。自分のこの髪が、何か兄を悩ませている…その事実が堪らなく嫌だった。
「あっ、兄たん…ご、ゴメンね?もう大丈夫だよ?」
キルの心配そうな声に琉稀はハッとした。
「あっ…ゴメン、キル。なんでもないんだよ」
琉稀は困った様に笑いながら、櫛を拾いまたとかし始めた。
「癖ッ毛なんか気にしなくていいじゃないか」
「えっ、でも……」
「猫みたいで、可愛いよ」
「ほら」と鏡越しで癖ッ毛を指す。
ぴょこんと立っているその髪は確かに猫の耳にも見えた。
「猫…さん?」
「そう、猫さん。…角じゃあ………鬼…みたいだろ?」
――ゾクッ
何故だか寒気がした。
言いようがない恐怖が何故かキルを襲う。
なん…だろう。もちろん、物語でも悪者が多い鬼という単語が出てきたということもあるだろう。
しかし…その“鬼”と言った琉稀の声質がいつもより低く冷たいような気がしたのだ。
鏡越しで兄の顔を見る。
キルと目が合うと、琉稀はニコリといつもと同じ笑顔を見せた。
「アハハ。冗談だよ、冗談。とにかく、キルは猫さんみたいだから大丈夫だよ」
そう言って、また優しく髪をとかす兄に「う、うん…」と言うのが精一杯だった。
今は温かい…が、さっきは空気も冷たい気がした。
…気のせい…だよね。兄たんが…そんな怖いわけない。
キルは嫌な思いを振り払うかのように、琉稀が髪をとかしてくれていることも忘れ首を左右に振った。
もちろん「あっ、こら、キル〜。とかしてるのに〜」と怒られたが。
「ゴメン、兄たん。でも…えへへ。猫さんかー。猫さんなら嬉しいや」
やはりちっとも直らないこの髪を触りながらキルは笑った。
「………」
琉稀は暫く黙っていたが「…そうだよ?猫さんだ」とキルの頭をくしゃりと撫でた。
「だけど…やっぱりちょっと気になるなぁ…」
「…そんなに、気になる?」
「うん。こんなに立ってると…」
「じゃあ…明日、良いもの持ってきてあげる」
「本当!?」
キルの目がキラキラ輝くのを見て、琉稀は「うん。だから、イイ子で待っててね」と言いながら立ち上がった。
「じゃあ、明日も学校だし…そろそろ寝るね。明日…楽しみに待ってて」
襖に手をかけながら琉稀は言った。
「うん!ありがとう、兄たん!おやすみ!」
キルは満面の笑みで兄に手を振った。
「…おやすみ、キル」
琉稀も微笑むと襖を開けて、部屋から出た。
「やったー、またプレゼントだ♪」というキルの声が中から聞こえる。
「…………」
そんなキルを尻目に、襖を閉めた琉稀はいつもと違う険しい表情を浮かべていた。
「………鬼、ね」
そう呟いた後に空を仰ぐ。
月を見つめる琉稀の顔は厳しい物だった。
――翌日。夕方に琉稀は、キルの部屋を訪れた。
「…ただいま、キル」
「おかえり!兄たん!」
飛び付いてくるキルを受け止め、その頭に大きめの帽子を乗っけた。
「? 何ー?これ」
今のキルだと、前が見えなくなりそうな帽子を手にとりながらキルは尋ねた。
「これはね、今、流行っている帽子で…キャップとは違うお洒落な帽子なんだよ」
琉稀はそう言うと、しゃがんだ。
「これなら隠れるでしょ?頭」
「! そっかぁ!分からないよね、これなら!」
大きな帽子を被りながら、キルは鏡を見る。
癖ッ毛は完全に隠れており、分からなくなっていた。
「そうそう。でも…ちょっと大きすぎたね。大人用しかなくって…」
「ううん!へーきだよ!ありがとう!」
キルは帽子を触りながら、嬉しそうに言った。
「どういたしまして。じゃあ、庭でボール遊びでもする?」
「うん!」
真新しい帽子を被ったキルは部屋から鞠を持ってきて、外に飛び出した。
琉稀もその後に続く。
夕日に照らされながら、2人は鞠でキャッチボールをしたり玉蹴りをした。
楽しそうに遊ぶ2人を夕日のオレンジが染め上げていた。
縁側には琉稀が毎日持ってくる赤い薔薇があった。
いつも、これをキルは大切に花瓶に入れていた。
――そう。この時に貰った帽子は、今も稀琉が大切に被っている白と黒の帽子だ。
――ずっとこの日々が続くと思っていたんだ。
楽しい時間が。
でも…幸せはそうそう続くものではなかった。
何より…オレが気付けなかったんだ、毎日が幸せ過ぎて。
寂しさの中のこの幸福が大きすぎて。
そのことにキルが気付くのは、キルがもうすぐ6歳になる、ある夏の日だった。
「んー………」
キルは鏡と睨み合いをしながら櫛で髪をとかしていた。
寝る前にキルが必ず、する行動。
その理由は不自然に上がった2つの癖ッ毛を直す為。
キルはそれが嫌だった。
しかし、いつも何をしても直らなかった。
その時…
カラカラ
「!」
「ただいまー、キル――」
慌ててキルは櫛を隠すが、琉稀はそれに気付いた。
「…また髪をとかしてたの?」
「えっ?う…うん」
琉稀に言われ、悲しそうに頷いた。
「……」
それを見つめる琉稀の顔にも曇りがあった。
しかし、すぐにキルのところへ行き、櫛貸してと、声を掛ける。
「えっ?」
「俺もとかしてあげる。ほら、貸して」
琉稀に言われるがまま、櫛を渡す。
兄の冷たくなった手がキルの髪をとかす。
「本当にいつ見ても綺麗な髪だね、キル。本物の絹みたいだ」
スルスルと髪をとかしながら、琉稀は優しく言う。
「そうかな?でも…やっぱり、この髪の毛なんか角みたいで――」
「!」
カチャンと琉稀が櫛を落とした。
「? 兄たん?」
キルが不思議そうに振り返ると琉稀は虚空を見つめて何か思い詰めているようだった。
それがキルは嫌だった。自分のこの髪が、何か兄を悩ませている…その事実が堪らなく嫌だった。
「あっ、兄たん…ご、ゴメンね?もう大丈夫だよ?」
キルの心配そうな声に琉稀はハッとした。
「あっ…ゴメン、キル。なんでもないんだよ」
琉稀は困った様に笑いながら、櫛を拾いまたとかし始めた。
「癖ッ毛なんか気にしなくていいじゃないか」
「えっ、でも……」
「猫みたいで、可愛いよ」
「ほら」と鏡越しで癖ッ毛を指す。
ぴょこんと立っているその髪は確かに猫の耳にも見えた。
「猫…さん?」
「そう、猫さん。…角じゃあ………鬼…みたいだろ?」
――ゾクッ
何故だか寒気がした。
言いようがない恐怖が何故かキルを襲う。
なん…だろう。もちろん、物語でも悪者が多い鬼という単語が出てきたということもあるだろう。
しかし…その“鬼”と言った琉稀の声質がいつもより低く冷たいような気がしたのだ。
鏡越しで兄の顔を見る。
キルと目が合うと、琉稀はニコリといつもと同じ笑顔を見せた。
「アハハ。冗談だよ、冗談。とにかく、キルは猫さんみたいだから大丈夫だよ」
そう言って、また優しく髪をとかす兄に「う、うん…」と言うのが精一杯だった。
今は温かい…が、さっきは空気も冷たい気がした。
…気のせい…だよね。兄たんが…そんな怖いわけない。
キルは嫌な思いを振り払うかのように、琉稀が髪をとかしてくれていることも忘れ首を左右に振った。
もちろん「あっ、こら、キル〜。とかしてるのに〜」と怒られたが。
「ゴメン、兄たん。でも…えへへ。猫さんかー。猫さんなら嬉しいや」
やはりちっとも直らないこの髪を触りながらキルは笑った。
「………」
琉稀は暫く黙っていたが「…そうだよ?猫さんだ」とキルの頭をくしゃりと撫でた。
「だけど…やっぱりちょっと気になるなぁ…」
「…そんなに、気になる?」
「うん。こんなに立ってると…」
「じゃあ…明日、良いもの持ってきてあげる」
「本当!?」
キルの目がキラキラ輝くのを見て、琉稀は「うん。だから、イイ子で待っててね」と言いながら立ち上がった。
「じゃあ、明日も学校だし…そろそろ寝るね。明日…楽しみに待ってて」
襖に手をかけながら琉稀は言った。
「うん!ありがとう、兄たん!おやすみ!」
キルは満面の笑みで兄に手を振った。
「…おやすみ、キル」
琉稀も微笑むと襖を開けて、部屋から出た。
「やったー、またプレゼントだ♪」というキルの声が中から聞こえる。
「…………」
そんなキルを尻目に、襖を閉めた琉稀はいつもと違う険しい表情を浮かべていた。
「………鬼、ね」
そう呟いた後に空を仰ぐ。
月を見つめる琉稀の顔は厳しい物だった。
――翌日。夕方に琉稀は、キルの部屋を訪れた。
「…ただいま、キル」
「おかえり!兄たん!」
飛び付いてくるキルを受け止め、その頭に大きめの帽子を乗っけた。
「? 何ー?これ」
今のキルだと、前が見えなくなりそうな帽子を手にとりながらキルは尋ねた。
「これはね、今、流行っている帽子で…キャップとは違うお洒落な帽子なんだよ」
琉稀はそう言うと、しゃがんだ。
「これなら隠れるでしょ?頭」
「! そっかぁ!分からないよね、これなら!」
大きな帽子を被りながら、キルは鏡を見る。
癖ッ毛は完全に隠れており、分からなくなっていた。
「そうそう。でも…ちょっと大きすぎたね。大人用しかなくって…」
「ううん!へーきだよ!ありがとう!」
キルは帽子を触りながら、嬉しそうに言った。
「どういたしまして。じゃあ、庭でボール遊びでもする?」
「うん!」
真新しい帽子を被ったキルは部屋から鞠を持ってきて、外に飛び出した。
琉稀もその後に続く。
夕日に照らされながら、2人は鞠でキャッチボールをしたり玉蹴りをした。
楽しそうに遊ぶ2人を夕日のオレンジが染め上げていた。
縁側には琉稀が毎日持ってくる赤い薔薇があった。
いつも、これをキルは大切に花瓶に入れていた。
――そう。この時に貰った帽子は、今も稀琉が大切に被っている白と黒の帽子だ。
――ずっとこの日々が続くと思っていたんだ。
楽しい時間が。
でも…幸せはそうそう続くものではなかった。
何より…オレが気付けなかったんだ、毎日が幸せ過ぎて。
寂しさの中のこの幸福が大きすぎて。
そのことにキルが気付くのは、キルがもうすぐ6歳になる、ある夏の日だった。