Devil†Story
それから、刹那と稀琉の二人での生活が始まった。


そして、それをきっかけに名前を変えた。

鬼である自分がとても嫌だった稀琉に刹那がそう提案したからだ。


鬼琉を改めて大好きだった兄の名前の一部を貰い「稀琉」に。


稀琉は刹那のそんな心遣いが嬉しかった。


傷が治ってから裏の仕事について教えていった。


護身術を教えつつ、武器の扱いも一通り教えた。


しかし、なかなか稀琉は扱いきれなかった。


でも…1つだけ完璧に使いこなせるものがあった。


それは、鬼の殺器と呼ばれた…あの指輪型の武器。


しかし、稀琉はそれを使いたがらなかった。


当たり前だろう。


自身のトラウマに繋がるものなのだから。

だから、稀琉は一生懸命頑張った。


もし、人を殺すようなことになってもあれだけは使わない…


そう思いながら。


そして、稀琉はどんどん覚えていき、残りは生き物の命を奪うことだけになった。


しかし刹那は、心に深い傷がついてしまった稀琉に初めは優しく接していった。

彼の心の溝が少し埋まるまで優しく待った。


そして、それから半年後…ついに今までの裏の仕事にプラスし、生き物を殺すことなどについても教えていった。


初めは病気などでもう死んでしまいそうなネズミなどの小動物…猫、犬、馬など段々と動物を大きくし、さらに元気な動物にしていった。


初めは抵抗のあった稀琉も段々と動物を殺すことになれていった。

そして、ついに…人の番がやって来た。


でも、初めは殺すのではなく傷をつけるところから。


夜な夜な刹那と二人で、人を襲っている人間を探し、見付け眠らせて捕まえる。


目隠しをし、縛られた状態の犯罪者に死なない程度に怪我をさせる…

犯罪防止にもなるからと刹那は稀琉に言っていた。


初日は涙を流しながら…震える手で武器を持ったままで終わった。

それから、少しずつ人を傷付けるようになっていた。

それでも、部屋に戻ると泣くことが多かった。

そんな稀琉に刹那は敢えて優しくはしなかった。


優しくすれば…壊れてしまうのは目に見えていたから。


それから、月日が経ち…ついに今まで刹那がしてきた殺人の依頼を見ることとなった。


「刹那…」


その後ろ姿に声をかける稀琉。


「何?」


振り替えって刹那は答えた。


刹那は依頼となると人が変わったかのように冷たくなる。


それだけ、プライベートと仕事の切り替えができるということだが、そうなってからでは稀琉の不安な気持ちを伝えられないと稀琉は知っていた。


だからこそ、向かっている途中で声をかけたのだ。

「どうしたの?」


まだ優しい刹那はしゃがんで目線を合わせながら稀琉に問いかけた。


「あの…ね…」


不安そうな稀琉の様子に刹那はすぐに気が付き話した。


「大丈夫。今日は俺の仕事を見るだけ。だから、安心して」


そんな刹那の言葉にコクりと頷いた。


そして、依頼が始まった。


その間、稀琉は近くのゴミ箱に隠れていた。


刹那がターゲットに声をかけて、ナイフを取り出す。


インドア派に見える刹那だが、文武両道であり、運動神経は良い方だった。


稀琉は心臓がドキドキするのを感じていた。

刹那はターゲットの男性の足に蹴りを入れて倒し、とどめを刺そうとナイフを振り上げたーー筈だった。


ザクッ


「っ!」


「!」


ターゲットの男が隠し持っていた果物ナイフで刹那の腕を刺したのだ。


「このガキ…!」


実はこの男…元ヤクザの人間で今は女を騙して生活をしている男だった。


なので、喧嘩慣れしているのだった。


刹那がよろけ、尻餅をつく。


「ぶっ殺してやる…!」


「刹那!!!」


稀琉は思わず、ゴミ箱から出てしまった。


「! ダメだ稀琉!早く逃げるんだ!」


腕を押さえた刹那は思い切り叫んだ。


稀琉に気付いた男はニヤリと笑う。


「なんだぁ?ここはガキばっかいるんだなぁ?見られたのなら仕方がない。お前もこのガキも…殺してやる」


そう言って稀琉の方へ近付く男。


「やめろ!稀琉に手を出すな!っ…!」


いまだに出血している腕が痛む刹那は叫ぶのがやっとだった。


「あっ…」


カタカタと震える稀琉はゴミ箱から出たものの動けずにいた。



その内、男は稀琉の目の前に来ていた。


「じゃあなぁ、ガキ」


そう言って男は手を振り上げた。


その様子が兄と重なった。


「っ…!」


来るであろうナイフの斬撃に思わず目を瞑り、手で頭を守ったときだった。


ーーーヒュン


「ぎゃあぁぁあ!」


「!」


男が叫び声をあげた瞬間、びしゃっと生暖かいぬるぬるした液体が頭に降ってきた。


目を開けてみると、何かあったときのためのナイフをしまっていたホルスターから、置いてきた筈のあの武器が伸びていた。


そして、男の肩を貫いていた。



「なんで…」


稀琉は驚きを隠せない。


だって…これは、部屋に置いてきた…筈なのに…。



その時だった。


ーー私ハ…貴方ヲ守ル


「!」


ポゥとその武器は光を帯びた。


その光は暖かさを感じさせるものだった。


後で聞いた話だが、その時その光景をみていた刹那はその光が見えなかったそうだ。


ーー私ハ貴方ヲ守ル…道具。貴方ヲ守ル為ニ作ラレタノデス。ダカラ…貴方ヲ守リマス。


頭に直接語りかけられているような声に稀琉は武器を見る。


それは、本当に稀琉を守ってくれていた。


「そっか…君はあの時も…僕を守って…くれてたんだね…」


兄を殺した鬼の殺器と呼ばれるこの武器。


嫌で仕方がなかったこの武器は稀琉を守ってくれていたのだった。



ホルスターから、指輪の部分を取りだし指につける。



迷うのは…もうやめにしないと。


僕は決めたんだ。…この世界で生きて行くことを。


そして、自分のことやあの事件のことを…知ると。


自分で決めたものを…覆すわけには行かない。


だから…。


スゥと息を深く吸う。


「…僕と一緒に…ついてきてくれる?」


ーー喜ンデ。


次の瞬間、稀琉はその武器を手に目の前の男を切り裂いた。


「かっ…!」


悲鳴をあげる間もなく、男はドサリと倒れて絶命した。


そんな稀琉を刹那は目を離さずに見ていた。

その姿は、もう部屋に籠り泣きながら怯えるように過ごしていた少年ではなかった。


彼のなかで全てが吹っ切れた瞬間だった。


「稀琉…」


声をかけると彼は血塗れでこちらを向き…にこりと笑った。



「…僕はもう大丈夫だよ、刹那。自分で決めた道だから」


そして、刹那に近付き「それより、肩大丈夫!?」と手を差し出す。


全くこの子は…青鬼院の子だからか、強いな…。


この強さは求めていたものだけど…でも、彼が潰れてしまわないように、不安が大きくなってしまったときにきちんと対応できるように受け止めるのはもちろんだけど、言えるような関係も作っていけるようにしないとな…。


刹那はそう考えながら「ありがとう。大丈夫だよ」と伝えた。


こうして、稀琉はそのあともカフェの仕事を覚えて1年が経過した。


その後、彼は2年間1人でカフェを支えていき、麗弥がきて…その1年後にクロムとロスがやってきた。


彼は一人目の従業員として立派に勤めていた。


そんな稀琉にとって、刹那や仲間たちの存在はとても大きいものとなっていた。

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