Devil†Story
ー同時刻 Black Cafe店外ー

「ふー…」

大きい溜め息をついた少年がいた。


刹那だ。

当時13歳。

スーツを着た刹那がもうすっかり寒くなった夜明けの秋空を見ながら外を歩いていた。

まさか…こんな早くぽっくりと逝っちゃうなんてね…。

実はこの時、父親の葬儀が終わり色々な手続きをした後だった。


行っていた中学は中退し、このBackcafeを継ぐ手続きを。

母親はその1年前に亡くなっていた。


どちらも、このカフェを経営するために昼も夜も働きづめで休む間もなかったのは幼い刹那でも分かっていた。


だから、両親とも厳しかったのもあるが小さい頃から甘えようとは思わなかった。


ただ寝る前に見せる優しい両親を見て本当は優しいんだなと思いそのときに少しだけ甘えたくらいだった。


それも、小学校の頃の中学年あたりからしてはいなかったが。


成績は優秀で、スポーツもそれなりにできる優等生をずっとしてきた。


刹那がそうなれるように両親も色々してくれていたのも知っていた。


そんな両親だった為、病気で亡くなってしまったのだろうが…。


父親が亡くなる数日前にこのカフェの引き継ぎをした。


両親がしていたことの膨大な仕事量を知ると尚更いつ休んでいたのかわからなかった。


それくらい大変だったのだ。


確かにこのカフェは、カフェというのに大きいのもあったが…それ以上にBack Roomと呼ばれた場所の仕事量が凄かった。


Back Roomの仕事は簡単に言えば裏の仕事。


何でも屋的な存在のコースだった。


流石に殺しなどはしていなかったみたいだが、虐待の捜査や暴力団の捜査…麻薬などのブラックビジネスについても、全て行っていた。


また父に聞いてはじめて分かり驚いたことが…本や漫画の世界だけかと思っていた魔物や悪魔、天使、精霊などの生物がこの世には行き来していて、天使や精霊の類いはは殆ど何もなく人に危害を加えないから良いが…時には魔物等と出会うこともあったようだ。


その為、その類いの者に対抗するための術も学んで、実行していたみたいだ。


だから、小さい頃から武術等もさせられていたし、そういった者の本も読まされていたのかと納得する。


蓋を開けてみると俺の知らないことばかりで世の中は溢れかえっていることに気付かされた。


しかし…本当に居るのだろうか…。


疑いたくはなるが最早父親も亡くなってしまった今は確認することはできない。


ここのオーナーにという父親の遺言だったが…俺に勤まるのだろうか?


それに、この仕事に就くということは先程の話からして平凡な日々を捨てることになる。


そんな大きなことを…俺はできるのだろうか。


しかし、亡き両親が命を懸けて守っていたこのカフェ…潰すつもりは毛頭ない。


しかし、まだ13歳の俺に両親がしていた仕事をこなせるのだろうか…。


その不安は拭いきれない。


危険な仕事は両親が全てしたそうだ。


しかし、その結果両親は無理が祟って亡くなった。


俺と言う子どもがいたからこそかもしれないが、俺にはまだ引き継げる人はいない。


続けるためには…もっと仕事を分担しなくてはならない。


そして、義賊の様なことばかりしていても…今のこの時代、ダメかもしれない。


なので、裏の従業員を増やすのと…汚いこと…殺人等もこなしていけないと、俺は考えている。


そのくらいの人間が側に居ることは…俺自身の身を守ることにも繋がるから。


この世界はとても厳しい。


いつガキである俺が同業者に殺されるかも分からない。


独自で人の殺し方についても学んだ為、やり方を伝えることはできる。


しかし、やられるかもしれないこの状況なら…やはりその殺しをするやつに守ってもらえる可能性は大きかった。

裏切らず…尚且つ強く信頼のできる人物…。


募集をかければ、俺の意図はバレてきっと狙われる。


慎重には動かないといけないが、時間はない…。


「…さて、どうしたものかな」


ポツリと独り言を呟いたときだった。


目の前の十字路に誰かが走ってきた。


子ども…?


目の前に現れたのは金魚の絵柄の着物を着た金髪の少年。


…ただ全身が真っ赤ななにかで濡れていたが。


そのなにかは瞬時に理解できた。


…血だ。


「…!」


俺に気づいた少年はその青く美しい不安に満ちた目を大きく見開いた。


相当走ってきたのか肩を上下に揺らして息をしている。


「あっ…」


カタカタと震えたその少年は、俺を見て後退りをする。


見た様子その血はその少年が怪我をして出ている血ではない様子だった。


しかし血はかなりの量である。


彼の傷ではないと言うことは…その血は…他の生き物を傷つけてかかったもの。


もしくは、何かの事件に巻き込まれてかかったもの。


「君は…」


思わず声をかけてしまった俺に彼は怯えた様子でこう言った。


「ご…ごめんなさ…」


「大丈夫?怪我…しているの?」



分かっている質問を彼にぶつけると案の定彼はおどおどとした様子で答えた。


「ち…がうんです…。僕…僕は…」


つぅと涙を流す少年を見て心がズキリと痛む。


俺だって子どもは嫌いではない。


好きな位だ。


しかし…そんな悠長なことを考えている時間はない。


何があったのかくらいは聞き出しておかなければ警察にも行けないからな。


「あの…ぼ…僕…悪いこと…しちゃって…」


何故かは分からない。しかし、彼は俺を信用するかのように言葉を発する。


「悪いこと?」


俺の問いかけにコクりと頷く。


「僕…人を…家族を皆…こ…殺しちゃって…!」

更に溢れる涙。

その光景を思い出したのであろう。


「…本当に?」

「ヒック…うん…だから…どうしたらいいかわからなくて…悪いことをしたら怒られるっていうのは…知ってて…ヒック…“お巡りさん”にいかないといけないとこまでは…知ってるんだけど…でも、外のことは僕よく分からないから…どうしたらいいのか…」


嗚咽混じりの声で、やっと言い切った彼。

この時代にこの格好をしていて、外の世界を全く知らないところを見ると…あの有名な青鬼院家の子どもと見て間違いはないだろう。


ついこの間、父親からこの辺りのことについても聞いていたのでそれが役に立った。


「ねぇ、お兄さん…」


今にも消えてしまいそうな声で彼は俺に話し掛ける。


「僕…何処に行ったらいいの…?どうしたら…僕がしてしまった悪いことを…償える…?」


ーープツン


俺の中で何かが切れる音がハッキリと聞こえた。


まだ幼い彼を…利用すると言う黒い物がドロリと俺の心を支配していったその音が。

その涙で光る目を俺に向けた瞬間から分かっていた。


彼は1人目の裏の従業員になることを。


俺の物してしまおうとしたその醜い心が俺の中で溶けていった。


そして、それは後から気付くことなのだが彼を助けようと思ったその気持ちが溢れたのが。


「…ねぇ」


「…?」


涙で光る目をまた俺に向ける。


なんてタイミングが良かったのだろう。


そして、よく俺の前に来てくれた。


「こっちにおいで」


ニヤリと笑った俺は彼の手を握ってカフェに向かう。


「えっ…?」


戸惑う彼を尻目に俺はずんずんと歩いていく。


誰にも見られないようにカフェの中に入って血と涙で汚れた彼の顔をタオルでふいてあげた。



「お兄さん…?」


暖かい部屋に来たせいか、はたまた他のものが珍しいのか彼の戸惑いは大きくなるばかりだ。


「あのさ、良かったら聞かせてくれないかな?どうしてこんなことになったのか」


「えっ…」


彼は戸惑った様に聞き返す。


「悪いことっていうのも、君が何でそんなことしてしまったのかも俺には分からないから…だから、聞かせてほしい」


じっと見つめると始めこそ困った顔をしていたが、やがて口を開いた。


彼が鬼の血を引いていること。
それがきっかけで両親と兄の仲が悪かったこと。
定期的に倒れて熱が出て倒れていたこと。
そのときに、両親や兄を探しに行って扉を開けた時には既に両親が亡くなっていて兄に襲われたこと。
その兄からその子を守るために鬼の殺器と呼ばれる武器が動き出したこと。
殺したときの記憶はないが、その感触や匂いは知っていたこと。


ゆっくり…泣きながらも彼は一生懸命話をしてくれた。


なるほど…。


そういうことだったのか。


俺は暫く黙っていたがやがて口を開いた。



「あのさ、君…悪いことをしたと思っているんだよね?」


俺の言葉にコクりと頷く。


「帰る場所…僕が壊してしまったから…だから…僕は…」


「居るところがないんなら…俺のところにこない?」


「えっ?」


少年が驚いたように聞き返す。


「俺も家族が居ないんだ。昨日死んだばっかり。だから…俺も独りなんだ」


俺の言葉に目をあわせる小さな彼。


その瞳はまた涙が溜まっていた。


「君も自分のことを沢山話してくれたから俺も話すよ」


何故だろう…彼もそうだが俺も彼には話せた。


元々人は信じないで生きてきた。


それなのに…こんな小さな子には何でも話せた。


この時は分からなかったが、後で気付く。

俺も彼の前では安心できていたのが。


「そんな…大変なこと…」

話終えた俺に彼はそう呟いた。


「そう。俺も一人ではできない。でも…今までよりもっとやらなければならないことも沢山ある。だから…俺が居場所になるから、君も俺に…協力してくれないか?もちろん大変なことだし、嫌なこともしなければならない。だけど…」


スッと俺は彼の瞳を見つめる。その純粋で綺麗な瞳を。


「君とならできる気がするんだ。それに…俺はどうもこの事が気になるし。この事件の謎を知るきっかけにもなると思うんだ。ただ、罪を償って、なにも知らずに毎日自分を責め続けるだけで終わるか…それとも、前を見て真実を知って生きるか…全て君次第だ」


またその青い瞳が潤んできた。


まだ5歳の彼には辛い選択に決まっている。


それを、無理に今決めさせているのだ。


辛くないわけがない。


暫くの沈黙が続く。


彼が口を開くのを急かすつもりはない。


だから、俺は待った。


その答えを自分で言うのを。


やがてーー


「…ぼ、くは…」


「ん?」


「僕は…知りたい…。あの時に自分に何が起きたのか…。そして…償いたい…僕の罪を…」


蚊の鳴くような声でやっと絞り出した声。しかし、ハッキリと言った。



その言葉を聞いて俺はニヤリと笑った。


「…よく言ったね。明日から…びしばしと勉強させて貰うよ。だけど、その前に…」


俺は彼が怪我をした頭と体の傷に優しく触れる。


「傷を治そう。まずはそこからだ」


そして優しく頭を撫でる。


「今更だけど…君の名は?」


「僕は…青鬼院…鬼琉(きる)。…お兄さんの…名前は…?」


やはり青鬼院家の子か…と思いながら俺は答える。


「俺は朽木 刹那。ここのオーナーだ。これからよろしくね。…1人目の従業員さん」


俺が笑うと彼も微かに笑った。


こうして稀琉は1人目の従業員となった。
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