Devil†Story
「麗弥…」


部屋に入ったのは良いが、なんだか気まずい空気が二人を襲う。


「あっ…ごめん、な?稀琉。嫌なこと言って…」


麗弥はそう言うとチラリとクロムを見る。クロムはギロリと睨んだ。


(あいつ、また余計なことを…)


後で、もういっぺんぶん投げてやるか。そんなクロムの表情を見て、慌てて稀琉の方を見る麗弥。


「ううん…。オレの方こそ…心配してくれたのにごめんね?ありがと」


稀琉はニコリと微笑んだ。それにつられて麗弥も笑った。ロスがチラッとクロムを見た。その顔は心なしかニヤついている。


(なんだよ。随分仲間思いだなぁ。クロム)


(ちげーよ。あの、うじうじした感じが俺は最高にムカつくからな。ムカつくことされるのがやだっただけだ)


アイコンタクトで会話をしていたクロム達だったが、もうパニックを起こさないであろう稀琉に確かめなければいけないことがあったためクロムは口を開いた。


「…で。本題に入るが…。そうとなるとあいつは本気でお前を襲ってくるだろう。この場所もバレている可能性は高い。訳のわからん植物を操っているようだし…策を練っとかんとまたこんな風に不意をつかれるぞ」


「そうだなー。俺たちが任務しているのを見計らったかのように、あの兄貴といた金髪の、おねーさんがただの雑魚退治を依頼してきたからなぁ…計られた可能性は高い。今のうちに練ってた方が俺たちも動きやすいし、稀琉も今日ほど取り乱さねーだろうしな」


クロムとロスの言葉に稀琉は少し表情を暗くしたが、すぐに答えた。


「うん…そう、だよね… 」


「その女に見覚えは?」


「ないよ。兄さんがうちに友達を連れてきたことはないし…。何より、あの人…怜姫さんは兄さんを主と呼んでいた。上下関係があるみたいだったから…」


「なら、他に仲間が居るかもしれないということだ」


また沈黙が続いた。


「…まっ、まず稀琉は怪我を治すことに専念しないとな。心と体は一体とはよく言ったもんで、それじゃあけじめつけるにもできねぇし。話はそこからじゃね?」


先程と同じようにまたロスが背伸びをしながら沈黙を破った。


「そうやな…。ロスの言う通りや」


「うん…。ありがとう」


その時、ガチャリと扉が空いた。


「…刹那じゃねぇか」


クロムのその言葉に皆が一斉に扉を見る。


そこには息を切らした刹那がいた。


先程まで、仕事の為に稀琉が起きたことも知らず、石川に言われて慌ててきたのだった。


「稀琉…」


その顔には普段は見られないくらいの焦りと心配の表情が見てとれた。


「刹那…」


稀琉が「怪我を治してくれてありがとう」と言おうとした瞬間、刹那は早歩きで稀琉の方へ言った。


競歩並のスピードで。


そして、稀琉の側に来たかと思えば…稀琉を抱き締めた。


「せっ…せつな…」


「良かった…!目を覚ましたんだね…!本当に良かった…」


ギュッと力強く抱き締める。



今度は安心した表情で。


「……」


苦しいくらいの抱擁に、始めは唖然としていた稀琉だったが、目を潤ませて刹那の、胸に顔を埋めた。


「刹那…ありがとう…」


そして、抱き締め返す。


そんな稀琉の頭を刹那は優しく撫でた。


「本当、刹那は稀琉は特別扱いだなー」


ロスはクスリと笑いながら言った。


「ほんまにね。でも、ほんま良かったわ」


「ふん…」


クロムはくだらなそうに壁に寄りかかって目を閉じた。


「そっ、そんなことないよ!」


それぞれの反応に刹那は稀琉を抱き締めるのをやめて、言い返した。


「それに、稀琉は大怪我してたんだから安心するのはオーナーの役目でしょ?それに皆、平等にしてますー」


ぷぅと膨れる刹那に「いくつだよ」と思いつつ、クロムは口を開いた。



「まぁ、いい。とにかく、敵の正体がなんなのかまでまだわからん。また、罠を仕掛けられる可能性もないとは言えない。気を引き閉めろってことだな」


クロムの言葉に全員が真剣な表情になる。


「まっ、気を付けろってことだな」


ロスの言葉に頷く。


「せやな…。刹那も依頼人のこと、特に記録しといてな」


「分かってるよ。稀琉は暫く休養が仕事だからね?後、3人は…本当に気をつけて任務を行ってくれ」

黙って頷く3人と稀琉。



「じゃあ、俺は部屋に戻る。ねみーし」


あくびをしながらクロムはそう言うと歩き出した。


「また寝るのかよー…じゃっ、また麗弥に遊んでもらおーと」


そう言うとロスはニコリと笑うと麗弥を見た。


そのロスに麗弥は「げっ!?ちょっ、こないだみたいなのは勘弁してーや?!」と言った。


ロスは笑いながら「さー、どうでしょー?」と答えた。


…一体何をしたんだ?


そう思いながらも部屋を出ようとしたときだった。


「クロム!」


「?」


稀琉に呼び止められ後ろを振り替えるクロム。


「…ありがとね」


「…別に。てめえも腹くくれよ」


「うん」


「本当にありがとー!」と少しだがいつもと同じように言う稀琉にクロムは手だけ上げて部屋から出ていった。



その後ろをロスも麗弥に「あっ、用意だけしてくるから後で裏庭でやろーぜー!」と言ってクロムに続いた。


「なぁ、クロム。どう思う?」


追い付いたロスが前を向いたまま尋ねる。

クロムは、コートのポケットとから飴を取り出して口に含んでいた。


「さぁな。…だが、あぁいう執念だけで生きてきたやつは迷いがねぇ。あぁいうタイプは…1番、面倒だぜ」


飴の棒の部分をつまんで弄りながら答えた。


「…だな。んで、側近にいた金髪の女も面倒だろうし、何より…あっち系の奴等とやりあうのはバレねぇようにすんのは骨が折れるぜ。…あんまし大きな怪我しねぇようにしろよ」


そう言うとロスに鼻で笑いながらクロムは答えた。


「はっ…。そんなヘマしねぇよ。それよりか…傷心の稀琉の心が粉々になる方が…より面倒で…より腹が立つぜ」


ガリン


飴を噛み砕きながらクロムはそう答えた。
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