Devil†Story
「…んで?あのバカが居る場所の目星はついてんのか?」


稀琉の方は向かずに問いかけるクロム。


「うん。麗弥が居る場所の大体の見当はつくよ」


発熱のせいで本調子ではない様で、少し虚ろな目をし、歩く速さがいつもよりも遅くなっているが、ハッキリと答える。


「え、そーなのか?」


後ろを振り返ったロスは、不思議そうに尋ねた。


「うん。…兄さんが居る場所は…」


深く息を吸い込む。


きっと兄さんは…あの時の…12年前の復讐の仕上げをしてくると言っていた。


地獄を見せる準備をと。


だから、きっとあの場所に居る。


オレ達の家系の人間が神聖な場所と言っていた……。



「きっと兄さんは、“青鬼(セイキ)の間”に居るはずだ。オレ達の家系の人間が代々受け継がれる…青鬼院の名前の由来である青鬼の力が眠る場所に」


「にゃるほど。この騒動の発端になった…稀琉の中に眠る力の元がある場所で決着をつけようってことね。ほーんと、やらしい性格だね~」


「…場所は分かるのか?」


呑気に答えるロスを尻目に、クロムは冷静に聞く。


「大丈夫…そこなら、オレも兄さんも2回は行ったことあるから」


「といっても、掟に従ってオレみたいにその力を丸々受け継いだ者じゃなくとも…その力を受け入れさせて、崇高を途切れさせないために様にそこで出産しないといけないらしいんだ。だからその場所で、オレも兄さんも生まれたから、その数には入らないと思うけど」と、早歩きの2人についていけなくなってきた稀琉は小走りに変更して答えた。


「なら問題ないな」


相変わらず後ろを振り返ろうとはしないもの、歩く速さを僅かながら遅めたクロムは前へ行けと人差し指を何度か曲げてた。


「大丈夫…。道は覚えているよ」


小走りのまま稀琉は前へ出た。



暫く進むと恐らく本堂であろう建物の中へ入った。


稀琉はすぐに庭へ出て鬼灯が咲き乱れる場所に向かう。


「1個聞きたかったんだけどさ。このホーズキ?だっけ?これって、鬼の力を感じると光るの?」


唐突にロスが前を行く、稀琉に話し掛けた。


「オレも詳しくは知らないんだけど…鬼灯って元々魂を閉じ込めるという噂があるみたいだけど、名前に鬼と入ってるくらいだから…鬼の力を溜めることが出来る植物だったみたい」


蒼く咲き乱れる鬼灯をいくつか摘んだ稀琉は、中庭の扉を抜け、また室内に入りながら答えた。


そして、何やら水瓶のような物が置いてある行き止まりの様な場所に着くや否や、稀琉は鬼灯を握り、祈るように目をつむった。


すると鬼灯が更に蒼く光を帯び、その青い焔が回りの草を燃やした。


青い光玉のような、その実を水瓶のような物の中に入れると、水が光始めた。


それと同時に水瓶の後ろにあった壁が、ズズッと音を立てて横へずれていく。


その先に階段があった。


「おー、スゲー。稀琉がいなかったら暫く見付けられなかっただろうなー」


(まぁ、居なくても力の根元が分かれば、ここの壁をぶっ壊して進めたけど)


と思いながらもロスは感心したように呟いた。



「ってか、よくやり方わかったな?」


「あっ、うん…。5歳になるとここである儀式をするらしくて、その前にここの扉の開け方の練習するから…だから、兄さんもオレも1回は行ってるんだ。…兄さんは儀式も行ってるけどね」


「にゃるほど、にゃるほど。その儀式を稀琉の家系の人間はしなきゃならねぇのって、鬼の力を定着させるためで、鬼灯を媒体に力を扱う訓練もかねて開ける練習をしてたってわけな。だから、その鬼の力を生まれたときに受け継ぐ必要があるのは、5歳になった時にする儀式までに力を安定させるのにその場所でその血を赤子の時から受け継ぐためってことか」


手をポンっと叩きながら、ロスは納得した様子で呟いた。


「そうみたい」


「んなことどうでもいいけど…さっさと先に進むぞ」



「あのバカ殺すのは俺だからな」と地下へ続く階段を見据えながらクロムは答えた。


「……っ」


冷たく重い空気が地下から吹いてくる。


まるで心臓を撫でられているような寒気にギュッと両腕で自身を抱き締めた。


ずっと心に縛り付いていたあの事件…。


それにけじめをつけるときが来たのだ。


ずっと覚悟してたじゃないか…。


でも、正直に言えば怖い。


大好きだった兄。


優しかった兄を…変えてしまった…憎しみと対峙するのが。


真っ正面から向き合うのが。


心と心でぶつかり合うのが…息もできないくらい苦しくて辛かった。


「…大丈夫?」


ロスに声をかけられ現実世界へと引き戻される。


しっかりしろ。


あの時から望んできたことじゃないか。


あの事件の真相を知ることが。


首を左右に振ってからロスの問いに答える。


「大丈夫。…行こう」


静かに先に進む稀琉の後に黙って続く2人。



暫く歩いていると白い真っ直ぐな廊下のような場所へ出た。



「おー、地下なのに明るいなー」


ロスが呑気に呟いた時だった。


ーーガタッ


「!?」


奇怪な音が地面から聞こえた。


「!!危ない!!!」


「!」


「おぅ!?」


その異変にいち早く気付いた稀琉が近くにいたクロムを押した。


その瞬間地面から壁が出てきた。


ーーガコンッ!


そしてロスと、クロム、稀琉が分けられてしまった。


「ロス!?」


壁をドンドンと叩きロスの安否確認を行う。


「おー、大丈夫だぞー」


壁の先からロスの声が聞こえ安堵の溜め息を吐く。


「つーか、こないだとおんなじかよ…。!」


ーーカタカタカタ…


悪態をつくロスの目の前に体に糸がついた人形…まるでマリオネットのような物が現れた。


「おーおー、こんなに沢山出てきやがって」


スッと構えたロスはニヤリと笑った。


「どうしたの!?」


ロスの状況がわからない稀琉は壁に向かって叫び続ける。


「なぁ、稀琉。このまま真っ直ぐ進めばいーんだよな?」


「そうだけど…」


「んじゃあ、ここを片付け次第向かうから先に行っててくれ」


段々と近付いてくる人形から目をそらさず叫ぶロス。


「だけどーー」


そこまで言いかけた稀琉にクロムはポンと肩に手を置いた。


「ロスなら大丈夫だ。先に進むぞ」



「でも…1人や2人じゃ…」


「大丈夫だ。…ロス先に行ってるぞ」


静かに尋ねるクロムにロスは更にニヤリと笑って答えた。


「余裕、余裕。あとで会おうぜ」


「分かった。行くぞ、稀琉」


「えっ?」と聞き返す稀琉を横目にクロムは歩を進めた。


少し躊躇していた稀琉だが、頷く。


「このまま真っ直ぐ進めば繋がるはずだよ。無理しないでね!」


「OK、OK。んじゃ、またなー」


クロムと稀琉は奥へ奥へと進んでいく。



「はー、そんなに俺とクロムを離したいのかねぇ、奴さんも。…まぁ」



だからと言ってクロムを渡すなんてあり得ないし?


「てか、俺の許可なくクロムを連れていこうとするなんて…ムカつくよな?」


ニヤリと笑ったロスの目が紅く光る。


「誰も見てないからなー。…“消し飛ばしても”問題ないよなぁ…?人形共」


そう言ったのと同時に右手を伸ばした。


ーースッ


小さな紅黒い球体が操り人形達の方へ向かう。


一体にそれが触れた瞬間だった。


ーードカァン!!


「!!」



紅黒い光が弾け飛び、当たった人形は影も形も残っていなかった。


その周囲の人形も巻き込まれ消え失せた。

他の残った人形達が、武器を構えロスに向かっていく。


「くくく…刃向かわれるのは久々だ。まっ、お前達には分からねぇだろうなァ…。まぁ、良い。消し飛ばしてやるよ。…てめぇらを操っている主人も一緒にな」


普段殆ど感情を露に…というよりも、表情を変えないロスがまるでクロムの様に口角を上げて笑っている。


「さぁ、何秒持つかな…?少しは俺様を楽しませろよ…?」


普段とは比べ物にならないような低い声、冷たい雰囲気で…でも、楽しそうに言うロス。


俺様という言葉は、稀琉達はおろかクロムですら聞いたことのない言い方だ。


前回の廃病院の時同様に2度もクロムと分離させられ、先にクロムを連れていこうとする奴等のやり方が余程、気に入らないらしい。


あいつを勝手に連れてなんか行かせない。


あいつは、俺の契約者だ。


そんなこと…絶対に許さない。


1回目の時…まぁ、本当は今回で3回目だがヤナとクロムが初めて接触した時は魔界にいたからノーカウントでも良い。だから、2回目の麗弥が裏切ったときとヤナと戦ったときはムカついたが…本当の俺の“存在”に気付いてなかったと言うことも考えて大目に見てやれた。


だが…。


今回もその手でこられたとなれば…


この俺のことを知りつつ…その上で勝手に連れ出そうとしているということだ。


紛いなりにも魔物である者達がだ。


そんな悪い奴等には…仕置きが必要だよなぁ…?


この世に存在していたことに疑問を持つ位…跡形もなく消してやる。



目の前で哀れに消し飛んでいく人形を見ながら考えるロス。



何故それほどまでクロムに執着するのだろうか。


今まで気が遠くなるような月日を生きてきた彼がそれほどまで執着する意味は誰にも分からなかった。


その答えを知るのは彼の紅黒く染まった胸の内のみ。


「さぁ、消し飛ばしてやるぜ。…餓鬼共」


紅黒い彼の目が更に怪しく光った。
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