Devil†Story
あー、やっぱ戦いにくいなぁ…。


鞭で猛攻を続けるエンヴィーの攻撃を防御しながらロスは思った。


女性でドールだろ?俺の苦手分野なんだけど。


ロスは気が遠くなる程長く生きているからか先程も言っていたように様々な生き方をしてる生き物についての考えが広く、あくまでも彼女は女性として扱っている。それに加えて何故かさっきまで戦っていたマリオネットのようなドールには手加減をしないのに対し、エンヴィーのように完成度の高いドールに対し戦いたくない理由があるようだ。どうしても防御がメインとなっている。


それに…俺だって悪魔だからな…。


そろそろ…きつくなってきた…。


そう考えつつもしなる鞭を鎖で防御しつつ、鎖鎌のようにナイフを飛ばす。全然本気ではないそのナイフは意図も簡単に鞭で弾かれる。


今までロスは武器を使っていなかった。


悪魔のロスにとって人間を殺すのに必要はなかったからだ。しかし前より稀琉や麗弥と合同任務が増えてきた今、流石に不信感が募ってしまう。


そこで刹那がロスの戦い方を見てその武器を提案したのだ。


また衣替えの時に刹那は他のメンバーにもデザインを聞くのだが、その時にロスが「腕と足に鎖をつけて欲しい」と言っていたのもありその武器を採用することになったのだ。


今まで決してデザインについては(ファー以外)刹那任せにしていたロスがだ。


刹那は尋ねたがロスは「ん~、なんとなく?あっ!ついでに猫の足跡のロゴも入れてよ」と真相を言うのをはぐらかしていた。


その理由は…


「あら意外と防御主義なのね★もっと強引かと思ってたわ♪」


エンヴィーはそう言いつつその防御の間を掻い潜ってその鋭い鞭をしならせた。


「!!」


その先端がロスの頬をかすり、つぅと血が流れた。


「アタシと戦ってるのに考え事してたデショ?つれないわね~。本気で戦わないと…そのイケメンな顔が鞭でぼろぼろになっちゃうわよ?」


妖艶な笑みを浮かべながらエンヴィーはそう言ったが殆どロスの耳には届いておらず、頬を伝う血を手で拭って見つめる。


あ…やべ…適当に戦いすぎた…。


血なんて何年ぶりに流した…?


相手は?


…は?ドール…?


俺が…ドール相手に…?


心音が大きく鳴り響いた音が聞こえた。今まで我慢してきた黒い部分が自身の血と鞭の鋭い痛みで露になってきた。


いやいやダメだから…。落ち着けよ…。今"あの状態"になるわけにはいかねぇだろ…。


軽く頭を振って未だに大きく鳴り響き続けている心音を抑えるように胸元を強く握りしめる。しかし収まるどころかまるで飢餓状態のように口内に唾液が溜まり溢れだしそうな感覚が、"それ"を求めて体が元に戻ろうとしているのが鮮明に感じられる。


…ダメだって言ってんだろ。喰いたいのは分かるけど…。


自分自身に語りかけながら"それ"を押さえようとしていたロスだったが無情にも息を整えようと開いた口の中に自身から流れ出た血液が付着した。


口内に広がる魅惑の味、匂い……その刺激だけで保ってきたものは簡単に崩れ去る。


あ…もう無理…我慢できない……。


「まーた考え事してるデショ~?本当にぼろぼろになっちゃうわよーー」


そこまでエンヴィーが言った瞬間、顔面の左側面を何かが凄いスピードで駆け抜けていった。


その直後背後で爆発音が聞こえる。


「…え?」


恐る恐る振り替えると後ろにあった壁は跡形もなく消え去ってた。左頬に痛みを感じ触れてみると、軽いとはいえ火傷をしていた。


いきなりの攻撃にロスを見るエンヴィー。


ロスは下を向いていて表情は見てとれないが、未完成であるその体にもロスの物凄い殺気と威圧感、普通ではない力を感じとることは出来た。その空気感は思わず体が震えるほどであった。


「…ごめん。おねーさん。俺…もう我慢できそうにない」


先程、魔力を圧縮した塊を撃ったであろう右手が何かを堪えているかのように僅かに震えていた。


「俺…悪魔なんだよね。悪魔には…生き物の命を奪いたい欲求が…あってさ…。それが俺は他の奴等よりも強いんだ…だから……」


余程力んでるのかゴキンと指の骨が鳴った。



「悪魔…?あの西洋のーー!!!」


ロスが悪魔と言うことに驚いていたエンヴィーは更に驚愕する。顔をあげたロスの表情を見て、エンヴィーに本来ないはずの恐怖のようなものが襲った。

普段よりも目は紅黒く、微笑であったその口には先程よりもつり上がり鋭い牙が見えた。


手足についていた鎖がガキンと音をたてて地面に散らばる。


そう。


鎖をつけていた理由。


クロムと契約している為、自分では殆ど他者の命を奪わずクロムにやらせていたロス。そのせいでその欲求が満たされなかったことと、契約以外で魔力を解放することが安易ではないこの世界。


悪魔は体内に魔力が貯まりすぎないように定期的にその魔力を外に流す必要があるのだが、それすらも儘ならなかった。


ロスは魔力を貯められるタンクが尋常ではないくらい大きい。

その為、あまりそういった解放をする回数は他の悪魔に比べて少ないのではあるがクロムと契約して7年。


一度もその作業が儘ならなかった。


それを押さえるための戒めとして鎖をつけていたのだが、溜まりにたまった魔力に欲求。強いて言えば少し前まで感じていた怒りにロスの理性の鎖は切れてしまった。



「建物を壊すわけにはいかねぇし…本当女性には手をあげたくなかったけど……もう無理。……俺に殺させて…?」


ニヤリと笑ったかと思うと一瞬で姿が見えなくなった。


「えっ!?何処にーー」


空中に問いかけるエンヴィーだったが、その言葉を最後まで言えぬ内に、いつの間にか目の前にロスが居た。


「っ!!」


鞭を振り上げようとした手をロスが掴む。


そして、顎にもう片方の手で上を向けさせた。


「なぁいいよな…?おねーさん」


その妖艶な笑み、雰囲気にまるでお菓子につられてついていってしまう子どものようにエンヴィーは動けずにいた。


恍惚とした表情、その笑った口から見える鋭い牙、目が離せなくなるような瞳にエンヴィーは思考能力が鈍る。


蜘蛛の巣にかかった虫のように、また催眠にかかったかのように…エンヴィーは何もできなかった。それも束の間顎を上げていた手を離し、その手でエンヴィーの腹部を貫いた。


「っ…!!」


その痛みで現実に戻るエンヴィー。


手を抜くとエンヴィーは崩れ落ちた。


ロスは血のついた手を口元に持っていきペロリと指を舐めた。
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