名も無き花
姉は黙って、上目遣いでうちを見つめる。たまに体がこわばんだりするあたりが母性本能をクスぐる。

ちょっと甘いけど……まぁいいか。

「ま、合格にしてあげよう」
「ん…」

これ以上言葉がでないと言った感じに、うちから目をそらした。そのまま押し倒したい衝動を押さえて、手をはなす。

「じゃぁ、着替えてくるねー。ねーさんも早く着替えてよ?お出かけの時間が減っちゃうからぁ」

一瞬姉の表情が変わったが、何も言わずに頷いた。おびえる少女みたいにベッド上に座っている姉を目に焼き付けて踵をかえした。

部屋の出口で、ケータイのメール送信ボタンを押す。

廊下に響く姉の悲鳴を聞きながらご機嫌な気分で着替えをするうち。


姉とのデートにはいつも気合いを入れる。
金メッシュに合わせて買ったブラックのカジュアルジャケットや、スマートネクタイ、アームバンド・スカーフ・指輪・腕輪・ネックレス…。

次々付け替えてクローゼットの鏡と睨めっこ。



姉の悲鳴に耳を傾けて…服を選ぶうちの幸せ。
< 62 / 141 >

この作品をシェア

pagetop