PEACE
「それにしても、奈久留も昔に比べると剣がうまくなったな」
「当たり前だよ! もう16になるんだもんっ」
祖父に剣技を教わって早三年。
自分の身ぐらいは守れるぐらいになったと信じたい。
「16か……。お前の王位継承についてもそろそろ真面目に考えなければいけないな」
奈久留の胸元に光るペンダントに目を向けた。
両親が残した大切なものだ。
そして、王位継承の証――。
「考えるって言ったって、私は存在しない王女だよ? それに、記憶だってない
私に?」
存在しない王女。
奈久留は、五年前のある日から、死んだことになっている。
生きていることを知っているのは、この国の高い位の人間と奈久留付きの使用人ぐらいだ。
(五年前に暗殺されそうになって、そのショックで記憶なくして。殺し損ねたことが気付かれないためにとは言っていたけど……)
両親が病気で死に、王位継承の権利が私に回ってきたのをよく思わなかった人達がいたらしい。
酷い事件だったと言っていた。
死んだと仮定せざるおえないほど、悲惨だったのだろう。
そのせいか、祖父はとても過保護なのだ。
「それはそうだが……」
「それに、私が王座につくなんて想像出来ないもんっ」
まだまだ自覚の足りない
奈久留に、祖父は頭をかかえた。
すると、奈久留は何か思い出したように「あっ!」と声を上げた。
「どうした?」
「あー……。もうすぐ鬼ごっこの時間だから」
何やら焦り出す奈久留は、先を急ぐように体をムズムズと動かせる。
「鬼ごっこ?」
「とっ、とにかく! おじいちゃん、稽古してくれてありがと!」
「奈久留っ、待ちなさ……」
呼び止めようと思った時には、すでに奈久留は部屋から出ていってしまった後だった。