プラチナの誘惑
ぐっすり眠る哲人くんを起こさないようにそっと部屋を出て、昴と柊さんがいるリビングに行くと、二人の低い声が聞こえてきて何となく立ち止まってしまった。

コーヒーを入れ直すと言ってキッチンに行った逢坂さんはまだ来なくて…。

どれだけの広さがあるのかわからないくらいに広いリビングの中央にあるソファに座る二人の声は
少し聞き取りにくいけれど、なんとなく入って行きづらい雰囲気で。

「…で?行くのか?昔の女の結婚式」

笑いとからかいを含んだ柊さんの声。
ソファに座ってコーヒーを飲んでいる顔は、声と同様にいたずらっぽくて。

私に背を向けている昴の表情は見えないけれど
柊さんの言葉が、私の足を更に動けなくする。

昔の女って何の話…?
結婚式って?

気付くと、鼓動は乱暴な音をたてて暴れて。
じっと息を殺しながら昴の言葉を待っていた…。

無意識に右手で…左手の小指をぐっと掴んでしまうのは…不安な時の私の癖。
今も胸の前でぎゅっと…。



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