僕の明日みんなの明日
帰ってきたお母さん達は元気がなかった。二人とも一言も話すことなくお母さんはリビングのソファーに座り込み、お姉ちゃんは逃げ込む様に自分の部屋に入った。

2人ともまだ僕のことを気にしてるのかな?僕はお姉ちゃんの様子が気になり部屋の方へ見に行った。

お姉ちゃんの部屋に入ると部屋の中は机のスタンドライトだけで薄暗い静かな闇が広がっていた。お姉ちゃんは机の上にうつぶせになって体を震えさせていた。あのお姉ちゃんが泣いてる…声を殺して泣いてる。

『浩太、浩太・・・。』

お姉ちゃんは震えた声で僕の名前を何度も呼んだ。僕はお姉ちゃんが大好きだった。

僕は大好きなお姉ちゃんを泣かしてしまった。お父さんに叱られたときもバスケの練習のときに足の骨を折ったときも絶対に泣かなかったお姉ちゃん。いつも僕に優しい笑顔を向けてくれていたお姉ちゃんを僕は泣かしてしまったんだ。

お姉ちゃんは僕の為にこんなに泣いてくれているのに僕は声をかけてあげることもできない。「元気を出して」って励ましてあげることもできない。自分の無力さと罪悪感に耐え切れず、僕はお姉ちゃんの部屋を出た。

部屋を出た後もお姉ちゃんの声は部屋の外にも微かに聞こえた。なんとも言い表すことのできない気持ちを抱えてフラフラとした足取りでお母さんの隣に座った。

お母さんは黙ったままずっと一点を見ている。見ているものはここじゃなく違う何かを見ているようだった。

お母さんは何を見ているんだろう、過去?未来?それとも現在?お母さんが考えていることが知りたかった。僕は歩君が言っていたようにお母さんが言葉をこぼすのを待った。

だけどお母さんは口を閉じたままで時間だけが過ぎていき、朝方までそのままだった。

つらそうなお母さんの顔、悲しむお姉ちゃんの声。僕はこの家にいるのが耐え切れなくて始発の電車で歩君と待ち合わせをしている駅に向かった。
< 17 / 69 >

この作品をシェア

pagetop