僕の明日みんなの明日
僕は加藤さんに連れられて、アイツのアパートを出て近くのバス停のベンチに座った。

『どうして泣いたの?アイツの為?それともあたしの?』

『わからない。なんか加藤さんがお父さんだったらって考えたら、哀しくなってきて。』

『何故?それなら君のお父さんは君の為にしたはずよ、あたしも娘の為にしたもの。』

『そんなのちっとも嬉しくないよ!お父さんが僕の為に人殺しになるなんて、そんなの辛い。加藤さんの子供だって同じ気持ちだと思うよ。』

『そんな・・・そう、かもしれないわね。あの子はアイツを怨んでなんかない、だから成仏した。それなのにあたしは・・・』

加藤さんはどんどん落ち着いて、嫌な気配はまったくしなくなった。

『ありがとう、止めてくれて。アイツを殺しても、もっと辛くなっていただけだった。だって同類になってたんだもん。』

『そうだよ、アイツを殺しても自分が汚れるだけだって。』

『そうね、あたしって本当に馬鹿よね。子供に分かっていたことに、気付かなかったなんて。』

『そんなことない、僕もお父さんが殺されてたら許せなかったと思う。それに大人も子供も関係ないよ、家族を殺されたら誰だって哀しいもん。』

『そっか、そうよね。ありがとう、あたしより君の方が大人ね。』

『君じゃない、浩太。』

『え?あー、名前?そういえば名前聞いてなかった。浩太か、良い名前ね。』

『ありがとう。』

『生まれ変わって男の子が出来たら、絶対に浩太って名前にする。』

『それじゃあ、成仏するの?』

『ええ、色々迷惑かけたみたいだしそろそろ逝くわ。アイツの事が心残りだけど。』

『その事なら任せてよ。僕が何とかするから心配しないで。』

『浩太になら安心して任せられるわ。それじゃあさようなら、向こうで会えたらいいね。』

加藤さんは綺麗な笑顔で逝った。僕にはまだやることがあるからまだ逝けないけど、きっとまた会えるよ。だから、またね。
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