午前0時の誘惑
脱げないガラスの靴


「莉良、おはよ」


パソコンが立ち上がったところで隣から掛けられた声。
それは同期入社の武本清香(たけもと きよか)だった。
同じく総務部で事務を担当している。

私は入社以来この部署だけど、清香は営業二課の事務を経てここへやってきた。
大卒で入った彼女は、私よりふたつ年上の三十歳だ。
肩より少し長めの髪をきっちりひとつにまとめ、いつも清潔感を漂わせている。
猫のように大きな瞳と大きな口がチャームポイントだ。


「おはよう」


私の全身を上から下まで見ると、清香がニンマリという笑みを浮かべた。


「さては今朝は、王子様のところからのお帰りかな?」

「ど、どうしてわかるの?」


簡単に正解を言い当てられて、思わず口籠る。


「その高そうな洋服を見れば、一目瞭然でしょ」


……そうだよね。
こんなに高価な物、私じゃ手が届かない。
まさに身分不相応だ。

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