午前0時の誘惑
午前0時の向こう側


仕事を終えて社屋を出ると、グンと冷え込んだ空気が私を包み込んだ。
遥か遠くの空には、微かに夕焼けの残像。


「寒いね」


肩を縮めながら、同期の西原陸也(にしはら りくや)と歩き出す。
彼とは、清香と三人、やたらとウマが合って、ことあるごとに一緒に飲みに行ったりする仲だった。
今日もこれから、清香が合流する予定だ。


「いいお店を見つけたんだって?」

「うん、まあね」


陸也が得意気に笑う。


「何の店だと思う?」

「えー、なんだろう? 美味しいワインを飲ませてくれるとか?」

「ブー。残念でした。鍋だよ、鍋」

「お鍋? そっかぁ。そんな季節だもんね」


すでに迎えた冬。

海生と出会ってから、確実に時間は経過しているのに、ふたりの距離は、出会った頃とそう変わっていない。
心も身体も許しているのは、私だけ。

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