午前0時の誘惑

「誰って、莉良のオトコよ、オトコ」


黙り込む私に、清香が助け船を出してくれた。


「それは分かってるって。だから、どこの誰なんだ?」

「いちいちそんな細かいことはいいじゃない」


……でも、まだ望みはあるはず。

この数ヶ月、何も教えてくれないゼロの状態から、スマホのナンバーを手に入れたのだ。
決して越えられなかった、午前0時の壁だってふたり一緒に越えたのだ。

……これから、きっと少しずつ。
そう思うと、かすかに感じた胸の痛みを忘れられた。


「そういえば、さっき社内メールで来てた案内、読んだ?」

「ああ、現社長の退任式とかいうやつだろ?」


話題が別のことへと切り替わっていく。


「わざわざ社員全員集めて、そんなことをやらなくてもいいのにね」

「ほんとだよ。俺らには『経費削減』なんて、コピー代さえケチるくせにな」

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