午前0時の誘惑

私が選ぶ道は、ただひとつ。


「私……もう海生には会わない」


海生の透き通るような眼差しも、優しく触れる指先も、狂おしいほどの甘い声も、全て手離そう。


「あの女性(ひと)は、海生の大切な人なんでしょう? 日付が変わる時を一緒に過ごしたいのは、あの女性だったんだね」


この前の夜は、ちょっとした気まぐれだったのだ。
自分が去ることで悲しむ女を目の前にして、情けをかけてやっただけのこと。


『……莉良、今すぐ迎えに行くから――』

「来ないで。私は海生の……人形じゃないから」


海生に会ったら、また決心は揺らいでしまう。
海生に抱きすくめられたら、また戻りたくなる。

私の意志は、海生にかかれば、脆く崩れ去ってしまから。

海生が呼び止める声に耳を塞ぎ、スマホの電源を落とした。


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