破れぬ誓い



「父と母との幸せだった暮らしを思い出しました。
一緒に居たかったのに黙って消えていきました。」

「そうか…。」

「どうして…どうしてなんでしょうね。」


「どうして何か一つを得るともう一つを失ってしまうのでしょうか。」


アタシの呟きに近藤さんが耳を傾ける。


「小さい頃は両親といることで幸せでした。刀を使って力を手に入れました。
そしたら…そしたら…父を、母を失いました。」


「新撰組に入って敵を討つチャンスを手に入れました。
そしたら、故郷と、お華さんと別れました。」


アタシの目から一筋の涙が落ちた。

近藤さんは辛そうな表情でアタシを見る。


「今度は仲間を得ることができました。近藤さんや土方さん総司と出会えました。
今度は…何を失うんでしょうか。」


「……何も、失わないさ。」


近藤さんは小さな声で呟いた。


「大丈夫だ。俺が何も失わさせやしないさ。」


ぎゅっとアタシの手を握る近藤さん。

少しかさついて、ごつごつした大きな手。


「もう何も失うことはない。俺が絶対にそうさせないさ。安心するんだよ。」

「近藤さん…。」

「安心しろ。大丈夫だ。もう何も失わない、俺が絶対にそうさせないから。」


近藤さんの一言がアタシの胸にすぅっと降りてきた。

それはとても安心して何も怖いことなどなくなるような暖かい一言。








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