嘘の無い想い
「行くぞ。」


「え?」


考える前に体が動く。

雅美の手を取り、玄関ヘ向かった。


「悠ちゃん?ねぇ、待って。」


ただ、黙って手を引いた。

転がるように靴をはき、ポケットの合鍵で鍵をかける。


「雅美。」


「ん?」


「靴、履いたな?」


「……うん、履いた。」


まだ戸惑ったままの弱い笑顔。


「行くぞ。」


手を引き、ただ歩いた。

電車にも乗らず、ただ、歩いた。

信号で立ち止まっても、何も話さない。

雅美も何も聞かなかった。

俺は、握った手と、宝物の袋を離さないこと。

それだけに神経を集中する。

そして、歩きながら時折握り返される手が愛しくて、その度に込みあげる感情を抑えるのに必死だった。




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