サクラリッジ
「毛布はかわいいなあ」

かに玉は、しばしば私にそう言った。
弟を見る姉のような、そういう心境だったのだろう。
普段はバカだバカだと私をからかうばかりだったが、それに悪意を感じなかったのも、仲の良い姉弟に見られるやりとりのごとき暖かさがあったからだろうと思う。

私が冗談を言い、かに玉がそれを受けて何らかの反応を返す。
それがいつものパターンだった。
その中で、私たちはお互いについていろいろと語り合った。
他愛のない世間話の流れにまぎれたそれは、ただ語る以上に強く印象に残っていた。

「私、たまきって言うんだ。中学の頃のあだ名がタマキンでさあ」

「美大に行ってたから、イラストとかは得意だよ」

かに玉を思い出そうとすれば、言葉の断片がいくつも浮かんでくる。

「毛布の顔見たいなぁ。交換しよ」

「私、すごい可愛いよ。でも惚れるなよ」

事実、彼女は可愛かった。
個人的には、可愛いというよりは美人の系統に入ると思っているが。
彼女から受け取った画像を見て、それを褒めると
強気に、でもどこか照れくさそうに

「言ったじゃん、可愛いって」

と言っていたのは、今でも情景がありありと浮かんでくる。
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