おにぎり丼。
その後も、夜、時間があると、ヒトシは私を軽自動車で送ってくれた。

デートの時だけでなく、普段の仕事のあとも、車で送ってもらえるのは嬉しかった。



それは、いつものように、ヒトシの車を見送って、部屋に帰ろうとした時だった。



エレベーターに乗り込むと、中に男がいた。


男はニット帽を深くかぶり、マスクをして、うつむいていた。

私は、一目で、その男が怪しいと感じた。

このマンションに地下は無い。

1階からエレベーターに乗るときに、すでに中に人がいるのは不自然なことだ。

どう見ても怪しい。

あわてて外に出ようとした時には、エレベーターは動きだしていた。


殺されるかもしれない。

早くエレベーターから降りたい。

そう思った私は、素早く2階のボタンを押した。

今は、部屋に戻ることより、早くエレベーターから出ることが先決だ。

心臓が、ばくばくと音をたてる。

数秒が、数時間のように感じられた。

というのは言いすぎだけど、数分くらいには感じられた。

2階に着いてエレベーターの扉が開くと、私は全力疾走してエレベーターから離れた。


階段を駈け降りて、後ろを振り向くと、男が追ってきているのがわかった。

死ぬ!

殺される!

私は走り続けた。
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