コーヒーとふくれっつら
トイレのドアをとりあえずノックしてみる。

返事が返らないのを確認し、ドアを開けた。


「いない……と。」


バスルームも覗いてみたけれどやっぱりいない。

リビングに戻ろうと歩き始めて間も無くだった。

探し物を発見。


「見ぃつけた………と。」


キッチンの一番奥。

冷蔵庫の前に座り込んだ美里。

俺の声に一瞬ピクリと体を緊張させたのが明らかにわかった。

ゆっくり近付くと、狭い空間に美里と向かい合って座る。

両膝を抱えるように手にしているマグカップ。


「なぁ……」


その声だけで両手に力がこもる。

湯気の上がらないマグカップをじっと見つめたままの瞳は、更に力が込められて。

苦手なコーヒーが入ったマグカップだけが俺を見つめていた。



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