ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】
「もうそろそろ時間だ。こっちに来てなさい」
玄関から手招きをする父、衛(まもる)の声には沈痛な響きがこもっている。
火葬炉の扉が開くのだ。
「あ、うん。今行くよ、お父さん」
茜は軽く深呼吸して、気持ちを入れ替えた。
今は母の葬儀の最中。
神津明日香の娘として、やるべきことをやらなくては。
悩むのは、全てが済んだ後でいい――。
茜は玄関の奧に姿を消した父の後を追おうと、一歩、足を踏み出した。
少し注意力が足りなかったかもしれない。
雨にじっとり濡れた金属製の側溝は、とても滑りやすくなっていた。
ズルッ。
足を踏み出した刹那襲ってきた靴底が滑る感覚に、茜は自分が陥った状況を瞬時に理解して、血の気が一気に引いた。
「うきゃっ!?」
情けない悲鳴が口から飛び出すが、なんの助けにもならない。
ぐるりと回る世界。
ぶるん!
ポニーテールの明るい色の髪が、勢い良く揺れる。