魔神の魔術師

　日は次第に傾き始め、街は茜色に染まる。
空を飛ぶカラスの鳴き声は自分を馬鹿にしている様にしか聞えない。空腹と脱力感に肩を落とし俯き加減に歩くジルクは、今叫びたい気持ちで一杯だ。
すれ違う人は、彼の荒れた目を見ては危ない人を遠ざける様に視線を逸らす。
「腹減ったー…金はねぇ、泊まる所もねぇ…ついてねぇー、不幸だ」
後ろ向きな言葉ばかりで口からこぼすジルクは、虚ろな目に入った目の前の空き缶を睨む。この中に飲み物が入ってたんだよなー、美味しかっただろうなぁ…羨ましいなぁー。
風にふかれて缶は白い地面を転がる。
「そんなに不幸な俺が面白いかあぁぁぁぁぁぁーっ！！！！」
転がっただけなのに、今のジルクは笑ったように見えたのだろうか。懇親の思いを右足に込めて、缶を思い切り蹴飛ばした。
沈む夕陽向かって飛んでいく様を眺めていると、誰か通行人の頭に当たる。
「え、やばっ！」
大げさに転んだように転倒したのは恐らく女性だ。慌ててかけると、それは先ほどの女の子だである。
手に持っていたリンゴの入っている袋は地面に散乱。
「今拾いますから…ってさっきの、大丈夫か？」
「はははは…大丈夫、全然大丈夫だから。こう見えても頑丈が取り柄だし」
「大丈夫って、頭からたくさん血が出てんぞおいっ」
拾い終えたリンゴを袋に入れて手渡す。申し訳ないの思い込めて、何度もわいぃ、やごめんを連発するジルク。
そんな彼に対して少女は暖かく囁く。
「いいよ別に。ってか、アンタ顔凄くやつれてるけど、そっちこそ大丈夫？」
いえない。口をつむぎ視線を泳がせるジルクは、三日間何も食べずにお腹がすいていますなんて口が裂けても言えなかった。
しかし、口は言わなくても体は正直らしい。
「お腹鳴ってるけど…よかったら、うちに晩飯食べに来る？」
女神を見るような目で少女の両手を包み込み、硬く握るジルク。大きく縦に首を振って同意する彼を見て、少女は薄ら笑みを浮かべる。