放課後ハニー


「なぁんか青春って感じだわー」


今度は一転、随分とにこやかだ。
そういう顔を想像する。
顔は見ない。ていうか見たくない。苛立つから。


「…何が」
「夕陽の中のサッカーと、屋上で佇む少女と教師?」


横顔だったら見ない。ほんとに苛立つから。
そのつもりだった。
だけど相模は私に顔を向けた。


「はぁ?ばっかじゃないの?」


合わせまいとしていた視線が交わってしまった。
よりによってこんな不機嫌面で。


「折角可愛い顔してんだからそんな眉間に皺寄せちゃ駄目でしょ~」
「皺寄せたくもなるわよ。サッカーはともかくなんで私と相模が…」
「いいじゃない。王道よ?こういうシチュエーション。
校内でも指折りの美少女が実は屋上の鍵壊して侵入。ここで煙草でも吸っちゃったらもう完璧」


『どう?』と言わんばかりに
相模は吸い差しを私に差し出す。


「…不良教師」


吐き捨てるように呟いたら、ようやく顔を背けることが出来た。


「イケナイことを教えるセンセイだって必要だと思わない?」
「イケナイことをイケナイって教えるセンセイなら必要だと思うけど」
「ふぅん。じゃあ何を『イケナイ』として定義する?」
「さぁ。強いて言うなら気持ちよくないセックスとか?」


視界の端で相模の煙草の先端が赤く強く光り
一瞬の間の後
ぷっと吹き出した声と共に煙が吐き出されて
それはすぐに笑いへと変化した。



< 2 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop