放課後ハニー
放課後ハニー

屋上サンセット



もうすぐ18になる。

つまり初めての呼吸からもうすぐ18年。
学校という場所に縛られて12年目。
目が悪くなり、眼鏡を掛け始めて4年半。
高校生活3年目。
屋上の鍵をこっそり壊し、侵入するようになってから2年半。
10月が始まって15日。
中間テストが終わって1日。
夕闇が西の空を覆って数分。

18禁の解禁まではあと7日。



「…また来たの?」


扉の開く音の少し後、背後に感じた気配に、振り返りもせず声を掛けた。


「また、とはご挨拶な」


カチリと鳴るジッポの音、炎の音、煙草の先端が焼ける音。
肌寒いくらいの風のせいで、地面に放置した読みかけの文庫本のページがばらら、と捲れ
ついでにオイルとハイライトの香りを鼻先まで届けた。


「友響(ウキョウ)ちゃん、職員会議で名前が出てたよ。理系科目はすこぶる成績いいのに
古文とか日本史とかはやる気ないって」
「で?物理担当かつ担任代理の相模(サガミ)がお説教?」
「まさか。俺そんなに優しくないよ」


咥え煙草で私の隣に立った男は
熟したオレンジそのもののような夕陽に背を向けて煙を吐き出した。


「最低限以上の努力が必要ないと思うならしなきゃいい。俺も古文苦手だったしね」


2人分の体重を支える柵には、ここにあっても無駄であろう『危険!!』のプレートが
申し訳程度に風に揺れている。


「そんなこと言い放つような男が教師になれるなんて世も末ね」
「それ褒め言葉?」
「相模なんか褒めたってどうにもなんないわ」
「あぁ、そりゃごもっとも」


ははっ、と渇いた笑いを洩らしたのが、校庭でミニゲームをするサッカー部の掛声に混じって聞こえた。
6限の授業が終わってからもう2時間ちょっと。
テスト期間中は活動禁止だったせいか、彼らはいつもより活気に溢れている。
きっと10月から短縮された部の活動時間ぎりぎりの6時まで、ボールを追い掛け走り続けるのだろう。



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