悲涙の花びら
新しい日常
「ねぇ、知ってる?」
「知ってるって……もしかして、レイシア様が連れてきた方の事ですか?」
「そうなの。レイシア様は一体どういうつもりかしらね。いきなり見ず知らずの女性を連れてくなんて」
「レイシア様はお屋敷に女性は連れてきませんからね」
本当にどうなさったのかしら、と少し困ったようにメイド服を来た女性―少し年配であるが、品のある人―が言った。
その様子を見ていたもう1人のメイド―こちらはまだ若い―は、確かにそうだと思った。
彼女たちの主であるレイシア・ライル・ノグラース伯爵は、仕事熱心であり、あまり女性との付き合いをしない。
したとしても、表向きだ。
「でもホーリ様、誰もレイシア様がお連れになった方を見た方はいません。ただ女性だってことしか……」
「えぇ、そこが問題なのよね。今、どうやらレイシア様のお部屋にいるみたいなの」
「レイシア様のお部屋はお許しがない限り入れませんからね」
レイシアは自分の部屋に他人が入るのを好まない。
そんな事を思い出したメイド・ホーリは、ため息をついた。
ノグラース家に仕えて早30年になるが、未だ現当主のレイシアの理解し難い行動に頭を悩ませる。
はぁ、と再度ため息を吐いたホーリは一瞬隣の見習いのメイド・ルルシを見たあと、掛け時計を見た。
「……あら、やだ。ルルシ、こんな所で立ち話をしている場合じゃないわ。給仕をしなくてはいけないわ」
思いの外、時間が押しているのに気が付いて、ホーリは慌てて仕事に戻る。
「あ!はい!」
そんなホーリを見て、真似るようにルルシも仕事に戻って行った。