欠陥ドール


『マリー!』


『……やだ』


まだ、顔を上げなくてもカナンと目線が合った。



『お父さんとこ、帰りたい…』

『…ダメだ。今日から俺達はリタ様のものだ。俺達に帰る場所なんて、もうない』

『リタ様なんて、知らないもん』



自分の立場をよく知らなかった。聞き分けのないあたしを、怒りながらカナンはひたすら抱きしめてくれた。



『……前の暮らしには戻れない。あれは、お父さんが俺達を必死に守ってくれていただけ』

『……意味、分かんない』

『お前はまだ知らなくていい』



結局、その時のカナンはその言葉の意味を教えてくれなかった。



『これを、見ろ。この手首に刻まれた数字が俺達がリタ様のものだという証』


そう言ってカナンはあたしの左の袖をめくった。



教えてくれたのは、あたし達は誰かの所有物になったという事。



手首に刻まれる"088"という数字がそれを示す。



『俺にも同じものがあるから。ひとりじゃないから』


そうやって、抱きしめてくれるカナンの温もりさえ、受け入れられなかった。
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