欠陥ドール


温室の中で育てているハーブの香りが心地良い。胸がスッとして気分が晴れてくるみたい。



積まれている木箱に腰かけて目を閉じれば眠ってしまいそうになる。



リタと二人で会うの、久しぶりだ。



膝を抱えて思い出すのは、やっぱりリタの事ばかりで、今でも鮮明に蘇る。



あの日も、こうやってリタとこの場所と話した。




まだ、出会ったばかりの頃だった。





あの頃、慣れない場所がまだ怖かった。一緒に来たカナンとも、なかなか会えなくて、いつもひとりでいた。


いきなり、知らない場所に連れてこられて、知らない人の為に働けって言われたって、当時のあたしにはよく理解できなくて。



帰りたい、ってカナンに言ったら、他の人には絶対そういう事は言っちゃダメだって言われた。



ドールとしてそんなことは許されないからって。



それでもあたしは、お父さんと過ごしたあの日々に帰りたかった。
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