欠陥ドール
「マリー!」
ぼんやりと靄のかかったあたしの意識を呼び戻したのは、ずっと待ち侘びていた人の、声。
「ゴメン、遅くなった…!」
乱れた息。うっすらと汗ばむ額。きっと走って来てくれたんだね。
開いた温室のドアから冷たい風が入ってきて、リタは慌てて閉める。
「リタ、服…着替えて来なかったの?」
よく見ればリタはパーティーの時と同じ正装で。窮屈そうな襟元を緩めながら、笑った。
「着替える時間が勿体ないだろ?」
そう言ってだんだんと近付いてくるリタに、苦しい程に胸が締め付けられて。
リタも、あたしと同じ気持ちでいてくれた?早く、会いたいって思ってくれた?
その問いは口には出せないまま、胸に押し込める。大丈夫かな、破裂しそう。
「なんだよ、これでもかなり頑張って急いで来たのに。もーちょい嬉しそうにしろよ?」
リタはあたしの隣にドカッと腰かけて「あー、疲れた」と文句を言った。
違う、嬉しいんだよ。十分過ぎるくらいに。でもなんでだろう。うまく伝わらない。
今度、カナンに相談でもしてみようかな……。