雪に埋もれた境界線
「電気を点けても、やはりここも暗いですね」


 座間は暗い室内を見渡し、肩を竦めた。

 サロンの室内に入った四人はそれぞれソファに腰掛けると、久代はテーブルに置いてあるテレビのリモコンを手に取り、スイッチを入れた。

 丁度、朝のニュースが始まっており、四人の候補者達が、ぼんやりテレビを見始めると、

 
――――次のニュースです。昨日某県XX市のアパートで、殺害されていた高田順平さん五十二歳の自宅の押入れから、殺害時に使われたと思われる、凶器の包丁が見つかりました。凶器の包丁は、高田順平さんの隣に住む、無職、桜木啓太、五十四歳の物だと判明し、指紋も付いていたことから、警察では桜木啓太、五十四歳を容疑者と断定し、行方を捜している模様です。桜木啓太容疑者は、詐欺の前科もあるようです。近所の人の話しによると、昨日から行方が分からないということです。新たな情報が入り次第、お伝えしたいと思います。では次のニュースです――――


 候補者四人は、容疑者の顔写真を見て凍りついた。

 何故ならその容疑者、桜木啓太とは、昨夜まで候補者として一緒にいた高田だったからである。


「何てことだ……。相馬さんが云っていた通り、本物の高田順平さんを殺してまで、本人に成りすましてこの屋敷に来たっていうのか」


 沈黙を破ったのは木梨だった。


「まさか、本当に人を殺してまで……」


 久代は口に手を当てながら、それ以上言葉が続かないようだった。


「でも、結局彼は面接を受ける前に出て行きましたね」


 座間はしみじみとそう云うとタバコを銜えた。
 
 しかし本物の高田という人を殺し、成りすましてまでこの屋敷に来たのに、大人しく帰ったというのか……。今頃、何処へ逃げて行ったのだろう。

 それに高田以外にも本人に成りすました偽者が、この中にまだいたとしたら……。

 陸は眉間に皺を寄せながら、視線を室内から窓の外に向けた。

 その時、それぞれの候補者も、陸と同じことを思っていたのだろう。高田以外にも、この中に本人に成りすました偽者がいるのではないかと。その証拠に、室内には疑いの目が飛び交っている。
 
 曇った窓からは薄っすらと、雪が降っているのが見えた。




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