雪に埋もれた境界線
「相馬さん、まだ寝ているんですかね」


 座間の問いに、木梨と俺は「そうなのかなぁ」と首を傾げると、丁度その時サロンの扉が開き、久代が青い顔で入ってきた。


「座間さん、やっぱり黒岩玄蔵って、正体はドラキュラ伯爵なんじゃないかな」


 久代は本気でそう思ったらしく、サロンには久代以外の笑い声が響いた。


「もうっ! 真剣に云ってるのに」


「ごめんごめん。大丈夫だって。それより久代ちゃん、相馬さんと会わなかった?」


 座間は笑いを堪えながら久代に訊いた。


「会わないよ。呼ばれたの?」


「今、アナウンスが流れたところなんだよ」


 陸がそう答えたところで、アナウンスがもう一度流れた。

 相馬はやはり来なかったのだろう。アナウンスは座間の名前を呼んでいる。


「じゃ、俺もドラキュラ伯爵に会ってきますか」


 座間は肩を竦めて、久代に笑い顔を見せるとサロンを出て行った。

 久代はそんな座間からすぐにぷいっと顔を背けると口を尖らせ、タバコを銜えたのである。

 陸は立ち上がり窓に近づくと、曇った窓を手で擦り外を眺めた。天気は悪く、雲は灰色で、雪は小降りだった。しかし、奇妙なオブジェに所々降り積もっている雪は、余計オブジェを奇妙に際立たせていた。

 あのオブジェ、何度見ても気味が悪いな。
 陸はそんなことを考えながら、しばらく窓の外を眺めていた。
 
 扉が開く音が聴こえ、陸が振り返ると座間が部屋に入ってきたところだった。

 それから四人の候補者は、再びサロンで談笑したのである。
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