雪に埋もれた境界線
「昨夜、サロンで飲んでいたのですが、午後十一時くらいでしょうかね、一番最初に陸君が自室へ戻り、その三十分後くらいに相馬さんと久代ちゃんが自室に戻り、十二時になろうとする頃、私と座間さんも自室へ戻りました。それからはシャワーを浴び、寝ましたよ。朝は朝食の時間ギリギリに部屋を出ると、丁度座間さんも部屋から出てきたところだったので、一緒に食堂へ向かいました」


「そうですか。では座間博さん、あなたは?」


「私は木梨さんとほぼ同じです。自室へ戻ってシャワーを浴びると寝てしまいました。朝は時間ギリギリだったので、慌てて部屋を飛び出したら木梨さんと会い、一緒に食堂へ向かいました」


「ありがとうございました。とりあえず、私のアリバイも皆様にお話ししておきましょう。昨夜は三階の旦那様の書斎で仕事を手伝い、自室に戻ったのは午後十時頃でしょうか。その後はシャワーを浴びるとすぐ寝てしまいました。朝が早いものですから。朝は雑務をこなすため、午前六時前には一階の倉庫に向かいました。すでにその時皆様からお預かりした携帯電話などが入っていた段ボールが無くなっていたのです。倉庫から出てくると、そこで梅田に会い、崖崩れの話しを聞きました。その後、応接間の電球が切れかかっていたのを思い出し、新しい電球を持ち応接間に入ったところ、相馬貴子さんの遺体を発見したのでございます。すぐに応接間の電話を手にしましたが、受話器は反応がなく、調べると電話線が刃物か何かで切られていたのです」


 そこで磯崎は一呼吸おくと、


「完璧なアリバイを持つ人間は、一人も居られませんね」


 一同は神妙に磯崎の言葉を聞いていた。

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