雪に埋もれた境界線
第十章 帰ったはずの人
 食堂の席に着いた候補者四人は食欲もなく、それぞれフォークで料理を突っついたり、半ばぼんやりしていた。

 扉付近に立つメイドの鶴岡と半田は、相変わらずの無表情で、執事の磯崎は顔も出さなかった。

 食べ終わるか食べ終わらないか分からないうちに、ぞろぞろと候補者四人は無言でサロンへ向かい、自室に戻る者は一人もいなかった。やはり一人で自室にいるよりは、誰かと一緒の方がいくらか安心するという心理が働いたためなのかもしれない。そう考えていた陸も、その中の一人だったのである。

 サロンに入ると誰しもが倒れこむようにソファに座り、久代は無言でテレビのスイッチを入れた。テレビでは、新しい洗剤のCMがやっており、ぼんやり眺めているとニュースが始まった。

 キャスターの男の人が、新たなニュースを読み上げたのだが、候補者四人は、またもや驚愕することになる。

 今朝方殺された相馬と同姓同名の、相馬貴子という二十一歳の女性が、火事で死亡したと告げており、更に今朝六時頃、ここにいる座間と同じ、同姓同名の座間博さん六十七歳が近所を散歩中、足を滑らせ川に転落し、死亡したという事故を告げている。

 どちらもやはり同じ県内で、この屋敷から近い距離で起こった事故だった。
 相馬と同姓同名の人が偶然火事で死に、座間と同姓同名の男性は、こんな雪の中を散歩していて偶然死んだっていうのか……。

 
「嫌だー! 私と同じ同姓同名の人間まで死ぬなんて変だ! 絶対変だ! 俺は死にたくない」


 座間はパニックになり、サロンを飛び出していった。

 サロンの扉が閉まると、我に返った三人は顔を見合わせ話し始めたのである。
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