雪に埋もれた境界線
「何で、高田さんが、偽者の高田さんが……」


 震えながらぶつぶつと座間がつぶやいた言葉に、磯崎が質問した。


「座間さん、偽者とはどういうことでしょうか?」


 答えられそうもない座間に代わって、木梨がニュースで見た事実を簡単に説明した。


「そうだったのですか。忙しくてニュースをこまめに見られなかったものですから。皆様、ここは梅田と川西に任せて、ひとまずサロンにお集り下さい」


 磯崎はそう促すと、震える座間を立たせようとしたのだが、座間は磯崎の腕を振りほどいた。


「この屋敷にきてから、殺人だの、同姓同名だの、おかしなことばかりだ。私は部屋に篭らせてもらう」


 そう云い捨てて、ふらふらと歩いていった。


「仕方ありませんね。そっとしておいた方が良さそうですね」


 座間の後姿を鋭い目で見ながら磯崎はそう云うと、先頭に立ち、皆をサロンに連れて行った。

 サロンに入ると、候補者達はそれぞれが力なくソファに座り込み、メイドの鶴岡と半田は背筋を伸ばし、きちんと座り、磯崎は立って皆を見回している。


「先程、座間さんが仰っていましたが、同姓同名とはどういう意味なのでしょうか?」


 磯崎が、一人一人の顔を鋭い目で見ながら質問した。
 真っ先に木梨が、候補者達と同姓同名の人間が、殺人や事故で命を落としていたことをニュースで見たと説明した。


「そうですか。それは奇妙ですね。では、高田さんは本物の高田さんではなかったということでしょうか。それに他の方はどうなのですか?」


 磯崎は明らかに疑ったような目つきで、陸、木梨、久代、三人の候補者達を順番に見据えた。

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