雪に埋もれた境界線
第十二章 続行
 久代は俯いていた顔を少し上げると、陸の目を見てゆっくりと話し始めた。

「陸が部屋に戻ってから、私は相馬さんと飲みながら話していたの。木梨さんと座間さんは、最近の景気について熱く語っているようだった。相馬さんは酔いがまわったせいもあるのだろうけれど、離婚した経緯や、パート代が少ないという不満を云い出して……。それから、離婚した原因は、前の旦那さんが浮気をしてて、その浮気相手の女に貢ぐために借金をしてたみたいなんだ。それで生活が苦しくなったから離婚したのよって云ってた。それに、元々相馬さんは貧乏な家庭で育ったみたいで、お金に対しては執着が人一倍あったみたいなんだよね」

 相馬さんの、どこか寂しそうな雰囲気は、そういう過去が原因だったということか。


「それでね、離婚してから再就職は見つからなくて、仕方がないからスーパーでパートしているって。でも給料が少なくて、ブランド物が欲しくても買えないから私が羨ましいって何度も云ってた。だから私が『じゃあ相馬さんもキャバ嬢を一緒にやる?』って冗談ぽく訊いたら『年齢できっとダメね。でも黒岩玄蔵氏に私が選ばれれば、お金には困らないわ。今の私は怖いものなんて何もないのよ。だから、自分が選ばれるためなら、どんな手段でも使うかもしれない』って怖い顔をしてそう云ったの。正直私は、げぇ〜、何この人って思った。相馬さんが云ったことは、木梨さんと座間さんにも聞こえたみたいで、それから話しに加わってきたの。それで、座間さんも、酔った勢いがあったから少し意地悪そうな顔をして『相馬さん、じゃあ他の候補者である私達を蹴落とすのも平気ってわけですか?』って訊いてた。相馬さんは『そうかもしれないわね』って薄笑いを浮かべて、更にお酒を飲んでた。木梨さんは頷きながら黙って話しを聞いていたのだけれども、座間さんは、相馬さんの言葉に腹を立てたのか『私も今回のチャンスにかけてますのでねぇ。相馬さんが例え妨害しても負けませんよ』って挑戦的に云ってた。険悪な雰囲気だったから、木梨さんが『まあまあ、お二人とも飲みすぎじゃないですか』って笑って、私も『飲みましょ、飲みましょ』って三人にお酒を注いだりしてた。その後は、四人で面接のことについて話したりして、盛り上がってたの」


 久代はそこまで話すと、何か思い出したように首を傾げながら、再び口を開いた。


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