雪に埋もれた境界線
「ねぇ、あんたも招待されたんでしょ? 名前何て云うの?」


 随分馴れ馴れしく名前を訊いてきたが、相手があまりにも邪気のない笑顔だったので、陸はすぐ返事をした。


「石川陸です。あなたは?」


「私は辻本久代。あんた何処から来たの? 県内?」


 若い派手な女は、名を辻本久代というらしい。


「ええ、辻本さんは何処からいらしたんですか?」


「堅苦しいなぁ、久代でいいよ。私も県内から。自宅からタクシー使ったけど、交通費の二十万、全然余っちゃった」


 人懐こい久代は、そう云ってぺろっと舌を出した。

 彼女は金髪のロングヘアーを巻髪にし、目は二重でパッチリしており、化粧のせいか余計に人形のような大きい目である。そしてミニスカートに、上着は派手な色のカットソーを着ている。

 しばらく久代と話していて分かったことは、年齢は二十歳になったばかりで、キャバクラで働いているらしい。理由は給料がいいからだと云う。

 そこで、全員が揃ったのを確認し終えたのだろう、案内してくれた初老の男性は部屋に入ってから、じっと扉の前に立っていたのだが、少し大きめな声で説明を始めた。


「皆様、よく遠いところまでお越し下さいました。ありがとうございます。紹介が遅れましたが、私は黒岩玄蔵の執事をしております磯崎辰と申します。今日は到着されたばかりなので、皆様にはゆっくりして頂き、お互いの自己紹介などを済ませたら宜しいかと思います。夕食になりましたらお迎えに参りますので、その時にこれからの説明を致します。何か質問や必要な物などございましたら、そこにある内線電話で使用人にお申しつけ下さいませ。好きな飲み物も、すぐに持って参りますので。では、私はこれで失礼致します」


 磯崎? 磯崎辰? 何か、どこかで聞いたことがあるような名前だな。でも誰だっけ?

 まぁ似たような名前の人なんていくらでもいるしな。

 陸は首を傾げ考えたが、結局分からなかった。


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