雪に埋もれた境界線
第十七章 推理その一
「この中に、相馬さん、座間さん、久代ちゃん、梅田さんを殺害した犯人がいます」


 陸は大きい声でハッキリとそう云って、ここにいる全員の顔を見回す。

 すると木梨が顔を上げ、陸に質問をした。


「陸君、座間さんと久代ちゃんは自殺したのでは?」


「いいえ、座間さんと久代ちゃんは自殺に見せかけ殺されたのです」


「えっ、じゃあ高田さんは? 彼は自殺とでもいうのかね」


「それは違います。おそらく高田さんも殺されたのではと思います。しかし彼を殺した犯人は別でしょう」


 鶴岡と半田、川西は、やっと人間らしくおろおろしていた。まるで憑き物が落ちたように。

 磯崎はそんな他の使用人達に軽蔑するような眼差しを向けると、視線をずらし陸の顔を見据えた。


「石川さん、座間博さんと辻本久代さんが自殺ではないと仰る理由は?」


「調べたんですよ。磯崎さん達この屋敷の方達は、部外者の生死には関心がお有りではないようなのでね」


 陸は皮肉を含め、座間の片方しか履いていなかった靴下の件や、久代の首の痕を説明した。


「ほほう。では鶴岡、座間博さんと辻本久代さんの部屋に行って確かめてきなさい」


 磯崎は口の端を持ち上げ薄笑いを浮かべると、視線を俺に向けたまま鶴岡に命じた。

 鶴岡は云われた通り部屋を出て行ったが、その間、この部屋はまるで誰も存在していないかのように静まり返っている。ただ、陸と磯崎は対決しているかのような視線のぶつかり合いが続き、どちらも目を逸らさない。

 しばらくすると鶴岡が、勢いよく部屋に戻ってくるなり上ずった声で報告した。

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