アリスズ
☆
 あの、草原に差しかかった。

 その一面の草の波を見た時、景子は夜のことを思い出したのだ。

 三人の日本人が、この世界に降り立った場所。

 いま、ここにいる日本人は一人だ。

 けれども、それは悲しい一人ではなかった。

 梅も菊も生きていて、それぞれがすべきことに打ち込んでいる。

 景子も、自分をより活かすために都に向かっているのだ。

 草の波をかきわけて進みながら、彼女はさかんにきょろきょろとした。

 探しているものがあったのだ。

 昼間は明るいので、植物の光の判別が若干つきにくい。

 それでも、目をこらした。

「あっ…!」

『それ』が、目に入った時。

 景子は大きな声を上げてしまった。

 あっ…た。

 その事実で頭がいっぱいになり、おもむろにそっちに向かって歩き出す。

 草原から、頭一つぴょこんと飛び出している緑の切っ先。

 青葉をつけた、桜の苗だ。

 土に根を下ろし、それは一生懸命育とうとしていた。

 不思議なことに、木の周囲の草は円状に枯れている。

 その円に、景子が入った瞬間。

 ああ。

 そこは、むせかえるほど暑かった。

 草は、この暑さに耐えられなかったのだろう。

 ああ、そうなの。

 景子は、まだ低い木に触れた。

「日本は今…夏なのね」

 この桜の作る円は、どこか日本とつながっているのだろうか。

 不快なばかりの、日本の夏に包まれながら、景子は引き込まれるように空を見上げた。

 この桜の苗を、大樹に錯覚したのだ。

 枝を伸ばし、美しい青葉をしげらせる大樹に。

 そのまま、幻に吸い込まれそうになった時。

「ケイコ!」

 彼女は、引き戻されていた。

 青ざめた顔をしたアディマに。
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