アリスズ

「カナルディシーデンファラム…」

 アディマは、肩を落とした。

 目の前には、父と叔母。

 そして──戒められた妹。

 まだ小さい身体だが、彼女には長い髪がある。

 小さくとも、イデアメリトスの子は魔法は使えるのだ。

 しくしくと泣き続ける妹に、アディマはどんな問いかけも出来ずにいた。

「馬鹿娘が…」

 ふぅと、イデアメリトスの長が苦悶の息を漏らす。

 彼にとっても、この事件の真相は胸を痛めるものだろう。

「お兄様がいけないのよ! お兄様が、叔母上様を第一候補なんかにするから!」

 泣き崩れながら、ヒステリックに妹は叫んだ。

 とても、姿と見合う叫びではない。

 カナルディは、十六歳。

 十六歳の叫びにしても、それはヒステリック過ぎた。

「他の、髪を伸ばせないイデアメリトスにすればよかったのに! そうしたら、簡単に殺せたのに!」

 だが。

 十六歳の娘とは思えない、恐ろしい言葉を吐き出すのだ。

「何故に…カナルディシーデンファラムよ。兄の妃候補を、殺そうなどと思うのだ」

 苦悶の瞳を閉じながら、イデアメリトスの長は問う。

 妹の瞳が。

 涙に濡れたカナルディの瞳が、強い金の光を放って父親を見上げる。

「だって…」

 その唇の端が、釣り上がるように笑う。

「だって…お兄様の結婚相手が全部いなくなったら…私に順番が回ってくるでしょう? 親が半分違って、結婚したことがあるじゃない!」

 その場の三人全てが、言葉を失った。

 確かに、カナルディの母親とアディマの母親とは違う。

 三人の子を産んだ母は、太陽に召されたのだ。

 次の父の妻は、カナルディを産んで──そして太陽に召された。

 近親婚のせいで、身体が弱い者が多いせいだろう。

 その弱りかけた血を。

 更に濃くしようと思っていた娘が、ここにいたのだ。

 カナルディは、彼をただ兄として、慕っていたわけではなかったのである。

「しかるべき処分を…」

 それを、父に向かって口にすることしか──アディマにはできなかった。
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