アリスズ
□
 ケイコに会いたい。

 一人になった部屋で、アディマはそう思った。

 彼女が、既に都に戻っていることは、叔母からの手紙で明らかになっていたのだ。

 妊娠した身で、歩いて都に戻ったという。

 農林府の仕事も、おそらくしていることだろう。

 心配にならないワケがない。

 たとえ。

 たとえ、それがケイコにとっていらぬ心配であったとしても、だ。

 リサーとの会話も、彼を少し気欝にさせていた。

 農林府ならば、行けないことはなかった。

 アディマは、誰もが認めるイデアメリトスの唯一の世継ぎとなったのだ。

 上の二人は失敗し、下の一人はその権利を失ったのである。

 もはや、父の子でイデアメリトスを名乗れるのはアディマだけ。

 その世継ぎが、役所を視察するのは、おかしな話ではない。

「ダイエルファンを呼んでくれ」

 彼は、今では特進し、近衛隊の隊長になっている。

 本人には、相当座りの悪い椅子のようだ。

 だが、慣れてもらわなければならなかった。

 アディマが父親から代を引き継ぐ時には、彼は賢者の地位に座らなければならないのだから。

 ダイは、しばしの後に現れた。

 膝をつき、臣下の礼を取る彼が視線を上げた時、アディマはその顔つきに目を細めた。

 役職は、時に人を育てる。

 彼は、隊長という肩書きを与えられ、それにふさわしい者になろうとしているのだ。

「ダイエルファン…散歩に行こうか。役所巡りという、お堅い散歩だが」

 ソファから立ち上がり、アディマは息を吸った。

 自分も、イデアメリトスの次の太陽として、ふさわしい者にならなければならない。

 ケイコ…。

 曇りでも雨でも、きっと彼女は笑っているだろう。

 だが。

 イデアメリトスの太陽の下で、一番笑っていて欲しいと──そう思っていた。
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