アリスズ
○
 そうして、梅の都への旅は始まった。

 イデアメリトス直々の召集ということで、荷馬車と護衛は兵の詰め所から出された。

 梅は、それに乗っていればいい。

 ただ、側仕えとしてエンチェルクを連れて行くことを、アルテンに手紙でしたためておいた。

 彼女がいなければ、梅の旅路はもっと過酷なものになっていただろう。

 何しろ、彼女の身体は本当にポンコツで。

 ちょっとした疲れで、すぐに動けなくなってしまうのだ。

 荷馬車に横になっているだけだというのに、どうして消耗できるのか、自分でも不思議だった。

 そんな時には、エンチェルクは荷馬車を止めさせ、兵士に梅を外に抱えて出るよう頼むのだ。

「外の空気をいっぱい吸えば、気分が楽になります」

 実際、彼女の言う通り、外で座っているのは心地よかった。

 おそらく、車酔いに似た症状も併発していたのだろう。

 いつの間にか、木陰でぐっすり眠っていたこともある。

 気づいたら、荷馬車の中で揺られていた。

「気持ちよく眠られてましたよ」

 にこにこと。

 そして、エンチェルクは、お日様のように笑うのだ。

「都へ行けるのは、本当は嬉しいんです」

 少し気分のいい時。

 彼女は、そんな話をした。

「都なら親戚もいますし、家族とも会おうと思えば会えるところですから」

 エンチェルクの出身は、都よりもう少し南だ。

「問題は…こんなに早く戻ったことが分かったら」

 ふと、彼女は不安そうに表情を曇らせる。

「お屋敷をクビになったと勘違いされそうで…」

 両親の怒りでも想像したのだろうか、エンチェルクはぶるっと首を震わせた。

 その時だった。

 ガタンッ。

 荷馬車が、大きく不自然に揺れたのだ。

 そのまま、妙な角度に傾く。

「な、な、なに?」

 エンチェルクは、外へと飛び出して行った。

 幌程度では、声は遮れない。

 梅は、外のやりとりを静かに聞いていた。

 どうやら。

 車輪が壊れたようだ。
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