アリスズ
@
「梅…私、結婚するわ」

「あら、そう。おめでとう」

 ガッシャン!

 姉妹の会話を何気なく聞いていたエンチェルクは、抱えていた食器を大きく鳴らしてしまった。

 幸い、食器はどこも欠けることはなかったが、いまの彼女はそんなことに気を取られている余裕がなかった。

 キクが。

 エンチェルクの良き剣の先生が、夕食の内容を聞くよりも軽い口調で、物凄い報告をしたからだ。

 そして。

 ウメが。

 エンチェルクの良き上司でもあり主でもある彼女が、わずかも驚かず、その言葉を受け取ったのである。

 結婚なんて、本当ならば大騒ぎになるほどの、一大事のはず。

 相手が誰だとか、どうしてそうなったのかなど、経緯の話など一切ないのだ。

 前から、淡白な会話を交わす姉妹ではあったが、いまだにエンチェルクはそれに慣れなかった。

「道場はどうするの?」

 ウメは、結婚という事実を楽々飲み込んで、次の話に進んでいる。

「続けるし、ここに住むよ」

「あら、じゃあダイさんは?」

「官舎でいいんじゃないかな?」

 ダイさん!?

 結婚相手らしき名前を、ウメはさらりと口にするし、キクも否定しない。

 この国の、近衛隊長。

 それどころか。

 近い将来、賢者の地位を約束されている人だ。

 キクと仲がいいのは、分かってはいたのだが、まさか結婚とは。

「通い婚なのね」

「まあ、その辺になるんだろう」

 東翼妃に、賢者夫人。

 ウメの同郷の女性たちが、すさまじい相手と結婚していく。

 ウメの身分的に、アルテンと結婚することは不可能だ。

 前に、エンチェルクはそう思っていた。

 それが、どれほど間違いであったかを思い知った。

 出来たのだ。

 きっと、ウメがその気だったなら、領主夫人になれたのだ。

 彼女らに出会って、たくさんの常識が崩れた。

 そして、また今日──エンチェルクの常識が、大きく崩れたのだった。
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