アリスズ

 肌を、合わせる。

 重くたくましい身体が、菊を抱く。

 ダイは、多くを言葉に出来ない。

 そんなことは、知っている。

 だが、彼は目で、息で、大きな手で、菊に語りかける。

「さすがに…痛いな」

 痛みというものに、彼女は他の女性より慣れている。

 しかし、自分の身を内側から裂く痛みは、これが初めてだ。

 弱音ではなく、ぽろっと素直に感想を漏らしてしまった。

 動きが、中途で止まった。

 ダイの瞳が、彼女の瞳を覗きこむ。

「大丈夫だよ…」

 熱い痛みの中で、菊は微かに笑った。

 耐えられないわけではないのだ。

 嫌なわけでもない。

 ただ。

 景子の言葉が、ふっとよぎった。

『私達は随分遠くへ来ましたね』

 ああ、本当だ。

 あの時は、どこか漠然とそれを聞いていた。

 しかし、こうしてダイと身体を重ねようとしていると、すぐそこに、この男の体温を感じると、ひしひしと伝わってくるのだ。

 遠くに、来た。

 出会うはずのない男と、出会った。

 そして。

 ああ。

 自分が、女だということくらい、ちゃんと知っていた。

 だが、今日初めて。

 ちゃんと、分かった。

 目の前に、戦う身体がある。

 戦う男がいる。

 身体の芯が、じんじんと痛む中。

 そんな男と──唇を交わした。
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