一木くん
ちよこれいと
『ちよこれいと』
今年の2月14日は日曜日。
昼から私の家でのんびり休日を満喫しているのだが、やっぱりこの日は好きじゃない。だって、一木は、その、意外とモテるのだ。
「…ねぇ、一木」
「うん?何?」
「今日はバレンタインデーだね」
「うん」
「あのさ…チョコ、いくつ貰ったの」
「…義理が7、と」
「…と?」
「ええと、本命らしきチョコが2つ」
そう言う彼の顔は満更でもなさそうで少しイラッとする。だけど、異性に好かれて嬉しくないわけがない、というか、私だったら嬉しい。それでもやっぱり悪態をつきなくなるもので
「…このモテ男め」
「いや、俺なんか少ないほうで」
「彼女がいる男にチョコ渡すなんてよっぽど好きなんじゃないの」
毎年この日は、つい言葉は鋭くなってしまうんだ。
「そんな早とちり、」
「義理チョコだてたくさん貰ってるしさ、いいよね、人脈広くて」
つい日頃の不安も口から飛び出して
「日野だって十分広いじゃない、友チョコたくさん貰ったんだろう?」
自己嫌悪、炸裂。
「どうせ交換だもの、それに私の友達はみーんな女の子、男子なんか苦手だもん」
それでも一木は悪態ですら真面目に耳を傾けてくれるのだ。
「…じゃあ俺のことは、苦手?」
そして、
「苦手じゃ、ない」
「じゃあ、苦手じゃないただの男子?」
「ちが、う…す、好き…ってうわああ一木わざとでしょう!?私にわざと好きって言わせたんでしょう!」
「さぁ、どうでしょう」
こうして上手く平穏な空気へと変えてくれる。まさに一木マジック、この日は毎年優しく笑う彼に惚れ直すような気がする。