たとえばあなたが



『秋桜』の料理は、契約農家から毎朝届く新鮮な野菜を使っている。

野菜の味を生かすため、味付けは薄めにするのが和子のこだわりだった。

その中でも、和子が自信を持って千晶と小山の前に出してみせたのが、野菜の煮物だ。



さつまいも、にんじん、ごぼう、れんこん――



季節柄、しいたけや舞茸などのきのこ類もたくさん入っている。

ただの煮物でしょ、などと言ってみようものなら、たちまち和子の雷が落ちる。

季節に合った野菜を、どう組み合わせてどう味付け、そしてどう盛り付けるか。

それを考えるのは楽しいけれど大変なのだ、と和子は言う。



なるほどそこまで考えて作られただけのことはあり、秋色の煮物は香りだけでなく見た目にも食欲をそそった。



千晶は早速、鮮やかなオレンジ色のにんじんを口に運んだ。

にんじんが持つ甘みと香りがふわりと鼻に抜けて、旨みが口の中いっぱいに広がった。

「ん~、おいしい!」

と声に出すと、小山が、

「幸せそうに食べるね」

と笑った。




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