たとえばあなたが



「小山さんも食べてみてくださいよ。本当においしいんですから」

千晶は煮物の盛られた器を小山のほうへ押し出した。

「いただきます」

箸を手にした小山は、さつまいもを選んだ。

実はさつまいもは千晶の一押しだ。

偶然とはいえ、小山が最初にそれを食べたことが千晶はうれしかった。



「どうですか?」

まるで自分が作ったかのような得意顔で千晶が聞くと、

「うん、甘辛くておいしいね」

と、小山も満足げな顔を見せた。

「いい店を教えてくれてありがとう」

「えへへ、よかったです」



しばらくすると、和子が平たい陶器皿を手にやって来た。

「どうぞ、私の奢りよ」

「わぁ、おばさん、ありがとう!」

皿の上では、蒸した野菜と豚肉が食欲をそそる湯気を立てていた。

千晶と小山が同時に皿に手を伸ばした、そのとき、



「おばさん、ビール2本!」



店の奥の座敷席から元気な声が響いた。




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