たとえばあなたが



「今日は、お忙しい中ありがとうございました」

店を出て、崇文が深く頭を下げると、

「やめろやめろ」

と、中西は面倒くさそうに手を振って、そのまま歩き出した。



崇文が背中を見送っていると、中西は、ぴたりと足を止めて振り向いて、

「あー…礼子のこと、頼むよ」

と言った。



「えっ」

崇文の体が、思わず固まった。

「いや、俺、そんなんじゃ…」

焦って否定しようとして、しどろもどろになっている崇文を見て、中西は笑った。



「ばーか。変な意味じゃねえよ!」

「あ、そ、そうですよね」

「それから、今日何があったのか知らねえけど、あいつにはもう松田のことは聞かないでやってくれ」



そう言って歩き去った中西の後ろ姿は、刑事ではなく、兄のものだった。




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